コラム

「不服従のフランス」からEUへのレジスタンスが始まる 反骨の左翼メランション急上昇の秘密

2017年04月17日(月)11時02分

トゥールーズで演説するメランション Masato Kimura

<フランス大統領選の争点はEUに絞られた。EUは搾取のシステムだとさえ言われる。EUの緊縮財政と新自由主義の即刻停止を訴える極左候補メランション大躍進の原動力だ>

[フランス南西部トゥールーズ発]「レジスタンス! レジスタンス!」――フランス大統領選の1回目投票まで1週間を切った日曜日の4月16日午後、台風の目となっている急進左派の左翼党共同党首ジャン=リュック・メランション(65)がフランス南西部トゥールーズで選挙集会を開いた。

EUへの反乱

主催者発表では7万人が参加し、フェイスブックやユーチューブなどのソーシャルメディアで5万人が集会をフォローした。ガロンヌ川の辺りにある公園は年金生活者やカップル、若者、学生で埋め尽くされ、選挙キャンペーンのスローガン「不服従のフランス」とフィロソフィー(哲学)を表す「P」のロゴが掲げられた。

【参考記事】フランス大統領選、英米に続くサプライズは起きるか?

うららかな春の日差しに、赤いテラコッタレンガの建物が映える。フランス国旗や共産主義の旗、「スペイン共和制」の旗、同性愛の権利を訴えるレインボー旗が激しく打ち振られる。しかし、青字に12個の金色の星を並べた欧州連合(EU)の旗は一つも見当たらない。

フランス大統領選の最大の争点は今や「欧州」に絞られたと言っても過言ではない。メランションは緊縮財政とネオリベラリズム(新自由主義)の即刻停止など、EUの改革を訴えている。大統領に選ばれた暁にはEUとの交渉に臨み、満足のいく結果が得られなければEUから離脱すると断言している。

TV討論で他候補を圧倒し、急上昇してきたメランションは知的で雄弁だ。「水道料金が払えなくなった10万人の家族の水道を止める自由が認められている」「スケジュールに追われた母親が子供を独りぼっちにする自由も許されている」「経済のリベラリズムは消費者という家畜を生み出している」と語気を強めた。

【参考記事】フランス大統領選3位に急浮上、左翼党メランションの脅威

「これでは全体主義と変わらない。良心の自由を我々の手で取り戻そう。共有の未来を切り開こうではないか」。メランションに呼応するように「レジスタンス! レジスタンス!」のシュプレヒコールが沸き起こる。EUという経済統合システムの軛(くびき)につながれし者たちの反乱が始まろうとしている。

【参考記事】フランス大統領選、新労働スタイル「ギグ・エコノミー」が争点に

4月12~13日に実施された2つの世論調査でメランションは共和党の元首相フランソワ・フィヨン(63)を抜いて3位につけた。首位を争う右翼ナショナリスト政党「国民戦線」党首マリーヌ・ルペン(48)、中道政治運動「前進!」の前経済産業デジタル相エマニュエル・マクロン(39)との差は2~3ポイントと完全に視界にとらえた。

kimura20170417112302.jpg

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

三井物、連結純利益予想を上方修正 サハリン2は「協

ビジネス

日鉄、ウジミナスの保有株をテルニウムに譲渡 売却価

ビジネス

日鉄、純損益を600億円の赤字に下方修正 米市場不

ビジネス

トヨタ、通期業績予想を上方修正 純利益は市場予想下
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に「非常識すぎる」要求...CAが取った行動が話題に
  • 4
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 5
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 9
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 10
    高市首相に注がれる冷たい視線...昔ながらのタカ派で…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story