値上げに踏み切った鳥貴族が直面する「600店舗の壁」とは?
写真はイメージです。 Chaturong-iStock.
<懐の寒い時の救世主は、単なる「低価格の焼き鳥チェーン」から「メジャー外食産業」に進化できるのか。ワタミとつぼ八でも超えられなかった壁に挑む>
一律280円という低価格を武器に業容を拡大してきた居酒屋チェーンの「鳥貴族」がとうとう値上げに踏み切った。世の中はデフレ一色だが、物価上昇の圧力は徐々に高まっている。鳥貴族がさらに成長するためには、価格という障壁に加え、拡大した居酒屋チェーンの多くが直面する店舗数という大きな壁を乗り越えなければならない。
原材料費と人件費の高騰が値上げの理由?
鳥貴族は、多くの居酒屋チェーンが業績不振に苦しむ中、280円均一(税抜き)という分かりやすい価格体系を武器に急成長を続けてきた。同社の業容拡大はまさに破竹の勢いで、2010年にはわずか177店舗だったが、現在では560まで店舗数を増やしている。
店舗数の増加に伴って業績もうなぎ登りとなっており、2010年に56億円だった売上高は、2016年7月期には245億円に、直近の決算である2017年7月期は293億円となっている。
これまで同社の躍進を支えてきたのは、何と言っても280円均一という価格体系だった。しかし同社は今年8月、28年ぶりに価格体系を見直し、焼鳥とアルコール類の値上げを実施した。ドリンクは280円から298円に、焼鳥の単品メニューも280円から298円となったので一律18円の値上げということになる。食べ放題メニューについても2800円から2980円に改定された。
同社は値上げの理由として、原材料費や人件費の増加が続き、価格維持が不可能になったと説明しているが、この話はおそらく本当だろう。
鶏肉の市況は、もも肉についてはそれほど高騰していないものの、むね肉は価格上昇が続いており、ここ1年で1.3倍ほどに値上がりした。野菜も高騰が続いており、食材費はジワジワと同社の利益を圧迫している。これに加えてビールが値上がりしたことで、状況がさらに悪化した可能性が高い。
政府は、小規模な酒屋を保護するという名目で昨年5月に酒税法と酒類業組合法を改正。ビールの安値販売を事実上、禁止した。改正法は今年の6月からの適用だが、これを見越して年初からビールの価格が上昇。鳥貴族は、ビールで利益が出なくなった分、食べ物のメニューでカバーしなければ全体の利益を維持することが難しくなったものと思われる。
売上高の増加でカバーできない範囲ではないが......
人件費も高騰している。毎月勤労統計によると、6月におけるパートタイム労働者の時間あたりの給与は、前年同月比でプラス3.0%と大幅な伸びを記録した。パート労働者の時給は今年に入って著しい伸びを示しており、毎月、2%を超える上昇が続く。大都市圏のアルバイト・パートの平均時給(募集)は約1000円だが、現実には1000円を提示してもなかなか人が集まらないというケースは少なくないだろう。
こうした状況が重なり、鳥貴族はとうとう値上げを決断せざるを得なかったわけだが、これは同社の業績にどう影響するのだろうか。値上げといっても客足が遠のくほどの上昇幅ではないことを考えると、むしろ増益が見込めるとの見方もある。
同社の2017年7月期の決算は増収だったが、営業利益は前年比マイナス8.7%の減益となっている。同社の原価率は、2015年には約31%だったが、2017年には32%とわずかに上昇した。販管費率も2017年に上昇が見られることから、人件費が利益を圧迫していることをうかがわせる(同社には直営店とフランチャイズ店があり、決算上の原価率は店舗の原価率とは一致しないが、直営店の比率が高いことから参考にすることはできる)。
もっとも、この程度の原価や人件費の上昇は来客数の拡大で十分にカバーできる範囲であり、来客数が増えれば、大きなマイナスにはならないだろう。むしろ問題はこの先である。
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