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アングル:旅は観光から「体験」へ、航空会社・ホテルが続々参入

2023年08月21日(月)09時16分

 8月14日、カジノ経営で知られるMGMリゾーツ・インターナショナルにとって今年の集客の目玉は、スロットマシンではなく、久しぶりにラスベガスで開催されるF1グランプリだ。そして、観光客が定番の名所や名物に留まらない体験を求めていることに気づいているのはMGMだけではない。写真はエアビーアンドビーが今年1月に提供した、パリのガルニエ宮に泊まることのできるプランのために設置された家具。1月3日撮影(2023年 ロイター/Gonzalo Fuentes)

[ニューヨーク 14日 ロイター] - カジノ経営で知られるMGMリゾーツ・インターナショナルにとって今年の集客の目玉は、スロットマシンではなく、久しぶりにラスベガスで開催されるF1グランプリだ。そして、観光客が定番の名所や名物に留まらない体験を求めていることに気づいているのはMGMだけではない。

「コロナ後」を迎えて、グローバルな旅行産業は大きな回復を見せている。だが今どきの観光客が土産物を買いあさることはない。散財の対象は、これまでとは違う訪問地でのスポーツイベントやコンサートのチケットだ。

航空会社やホテル、旅行会社のあいだでもこうした変化に乗ろうとする動きが強まっており、通常の業務内容を超えて、特別なアクティビティーの予約を手配することで顧客を維持しようとしている。

MGMのビル・ホーンバックル最高経営責任者(CEO)はロイターに対し、「カジノの収益は上向きだが、横ばいに近い」と語る。収益の成長を引っ張るのはエンターテインメントやぜいたくな飲食体験だという。「より高いレベルの体験をしたいという思いが、財布のひもを緩める理由になっているように見える」

マスターカードの「2023年旅行産業動向」レポートによれば、入手可能な最新データである2023年3月の実績をパンデミック前の2019年3月と比べてみると、レストランやアミューズメントパーク、ナイトクラブなどのアクティビティーへの観光支出は65%増加している。これに対して、観光客が化粧品や宝飾品、電子機器に投じる支出は12%増にとどまる。

8月初め、エアビーアンドビーのブライアン・チェスキーCEOは投資家向け会議で、「人々が好むのは『体験』だ」と語った。同CEOの説明によれば、エアビーアンドビーのサイトでは、アクティビティー参加に関するレビューの95%が5つ星の評価となっているのに対して、宿泊のレビューで5つ星となっているのは84%だ。

「家でくつろぐよりもアクティビティー系が好まれているのは明らかだ」とチェスキーCEOは言う。

エアビーアンドビーのサイトは旅行者が部屋・住宅単位で短期レンタルできるサービスを提供しているが、チェスキーCEOによれば、今後はアクティビティーの提供にも手を広げていく計画だという。

アクティビティー関連の収益を伸ばしている企業は他にもある。

オンライン旅行会社トリップアドバイザーが運営するアクティビティー予約サイト「ビアター」では、第2四半期の収益が59%増の2億1600万ドルとなった。トリップアドバイザーのデータによれば、同社の四半期収益に占めるビアターの貢献度は、前年同期の33%から約44%に拡大している。

ビアターの広報担当者は、「2023年は、このカテゴリーにおける新たな記録破りの年になりつつある。予約状況は昨年やパンデミック前を上回る勢いだ」と語る。

モーニングスターの株式アナリスト、ダン・ウォシオレック氏によれば、現在、世界全体の旅行のうち約3分の2がオンラインで予約されているのに対し、休暇中のアクティビティーについては、オンライン予約は約30%に留まっている。

<既存の事業者も本格参入>

伝統あるホテルや航空会社も、アクティビティー分野への参入を試みている。アメリカン航空は6月、同航空の会員を対象として、自社ウェブサイト経由でのエンターテインメント関連の予約購入でマイレージやポイントを付与する制度を開始した。アメリカン航空では、同社サイトでイベントのチケットを購入する会員が大幅に増加していると述べている。

ホテル経営のマリオット・インターナショナルは2月、同社史上初めて、グローバルな顧客戦略の策定・遂行を担当する「最高顧客責任者」を任命した。

この新たな役職に就任したペギー・ロー氏はあるインタビューで、「マリオットで提供できるアクティビティーを紹介している。私なりに言えば、顧客が自力ではなかなか計画・手配しにくいものにアクセスできるようにする、ということだ」と話している。

ロー氏が挙げる例は、たとえば、入札の駆け引きを学べるようなオークション体験や、ワシントンで女子サッカー米国代表選手と一緒にマニキュアを塗ってもらうといったイベントだ。

MGMのホーンバックルCEOは、ラスベガスでF1グランプリが開催される11月、室料が上がっているにもかかわらず、MGMの予約率は前年同時期の2倍になっていると語る。さらに、同社にとって今年ラスベガスでの予約が最も多かったのは、米プロフットボールリーグ(NFL)所属のラスベガス・レイダーズが年間試合スケジュールを発表した日だったという。

ヒルトン・ワールドワイドの特典プログラム「ヒルトン・オナーズ」の戦略を担当するバイスプレジデント、ブラッド・アンダーソン氏によれば、同プログラムでアクティビティーとの交換に使われたポイント数は2022年に過去最高となり、今年もこれまでのところ前年比2倍のペースだという。

競合するハイアット・ホテルズは2022年11月、「ハンガリーの森林で専門のハンターや猟犬とともにトリュフを探す」、「ベニスでスピリッツを使ったカクテルの講座に参加する」 など、200以上のアクティビティーを揃えたプログラムを導入した。ハイアットによれば、その後、提供するアクティビティーを約25%拡大したという。

(Doyinsola Oladipo記者、翻訳:エァクレーレン)

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