ニュース速報

ビジネス

アングル:米銀健全性審査24日公表、大手行の大量自社株買い・配当の幕開けか

2021年06月24日(木)07時50分

 米連邦準備理事会(FRB)が米大手銀行に課した配当金と自社株買いの一時的制限の解除がかかる金融機関のストレステスト(健全性審査)が6月24日、公表される(2021年 ロイター)

[ワシントン 22日 ロイター] - 米連邦準備理事会(FRB)が米大手銀行に課した配当金と自社株買いの一時的制限の解除がかかる金融機関のストレステスト(健全性審査)が24日、公表される。自己資本要件が満たされるかどうかが解除の条件。アナリストによると、各行は解除を見込み、7月から総額1300億ドル規模の社債発行に取り掛かる構えだ。配当金や自社株買いに向けた動きが活発化するとみられている。

大手銀は昨年は新型コロナウイルス禍の打撃に見舞われ、FRBが仮定していたようなシナリオに比べ、はるかに厳しい経営環境下に置かれた。緊急的な規制緩和措置が取られた一方、配当は抑制され、世界金融危機後に導入されていたストレステストは、6月だけでなく12月にも実施された。

アナリストらは、こうした対応に加えて低金利策が取られ、政府の財政出動で貸し倒れも抑制されたことから、今回のテストでは首尾良い結果が出ると見込んでいる。

コンパス・ポイント・リサーチ・アンド・トレーディングのディレクター、アイザック・ボルタンスキー政策調査部長は「コロナ危機が始まった際に大手銀の資本の健全性は十分だったし、彼らは政府がコロナ対応を進める上でも重要な役割を果たした」と評価。「今や株主たちに十分な資本リターンを還元する用意ができているように見える」と話した。

<制限解除>

FRBは昨年6月、感染拡大で想定以上に経済が落ち込めば、34行で最大7000億ドルの貸倒損失が発生する恐れがあるとの見立てに基づき、手元資金の一段の確保を求めた。配当支払い制限や自己株式取得の停止を要請した。幾つかの銀行については自己資本規制が求める最低要件の抵触も警告した。

12月の追加ストレステストではどの銀行も資本要件を満たしたことから、FRBは大手銀に対しても自社株買いと配当の再開を制限付きで認めた。自社株買いと配当金の合計額については、過去1年の純利益に基づく上限を設けた。

FRBは今年3月に、6月のストレステストで自己資本の最低要件が満たされれば、「大半の銀行」に対する残りの制限は撤廃すると発表した。

今年のストレステストの想定失業率は10.75%。つまり、ざっくり言うとコロナ前にFRBが昨年に向けて用意していたシナリオ(同10%)よりは厳しいテストになるが、12月実施されたテスト(同12.5%)よりは軽いことになる。

KBW銀行株指数の上昇率は今年に入って約25%と、S&P総合500種指数の13%を上回っている。6月のストレステストを難なく通過するとの期待が一因だった。レイモンド・ジェームズのアナリスト、デービッド・ロング氏は「銀行株の投資家が今年に期待する好材料の1つだ」と述べた。

FRBの規則では、銀行は四半期ごとに自社株買いと配当金を見直せる。大手銀は既に今年4月以降、社債400億ドル以上を発行しており、これは記録的な額とも見込まれる還元策をを手当てするためだったとみられている。

エバーコアISIのアナリスト、グレン・ショール氏は「(株主還元の)規模は大きい」と予想。大手6行が来月からの1年間で実施する自社株買いと配当は平均で利益の122%相当と、比率が前年の2倍以上になると推計する。6行の向こう1年の自社株買いと配当は計660億ドル増の1300億ドルになるという。

6行、即ちバンク・オブ・アメリカ(バンカメ)、シティグループ、ゴールドマン・サックス、JPモルガン・チェース、モルガン・スタンレー、ウェルズ・ファーゴと、FRBはコメントを拒んだ。

<ウェルズ株主が最大の勝者か>

ウェルズ・ファーゴはFRBからバランスシート拡大を制限されてきたこともあり、他行よりも急速に自己資本を増強。ショール氏の予測によると、向こう1年で株主還元の増額は190億ドルと、6行で最大になる可能性がある。

同氏によれば、大手4行で見ると株主還元の対利益率は167%となる可能性がある。前年はわずか28%だった。

株主はこうした動きを喜ぶだろうが、議会の民主党議員からは激しい怒りを買う可能性が高い。こうした議員らは、銀行が資金を米国の一般大衆を助けるのに使うべきだと考えている。

コーエン・ワシントン・リサーチ・グループのアナリスト、ジャレット・セイバーグ氏は「今後はストレステストをどう厳しくしていくかという点に(政治的な)圧力が強まる」と指摘した。

(David Henry記者、Pete Schroeder記者)

ロイター
Copyright (C) 2021 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

パキスタン国際航空、地元企業連合が落札 来年4月か

ビジネス

中国、外資優遇の対象拡大 先進製造業やハイテクなど

ワールド

リビア軍参謀総長ら搭乗機、墜落前に緊急着陸要請 8

ビジネス

台湾中銀、取引序盤の米ドル売り制限をさらに緩和=ト
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これまでで最も希望が持てる」
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 6
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 7
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 8
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中