ニュース速報

ビジネス

アングル:ホンダジェットに黒字化の試練、景気変動の横風も

2017年03月30日(木)09時17分

 3月30日、ホンダが2015年末に納入を始めた「ホンダジェット」の売り込みを世界規模に広げている。燃費や居住性、静粛性などに優れる最新鋭のビジネスジェットで、20年末までに航空機事業の単年度黒字化を目標に掲げる。写真はノースカロライナで2016年11月撮影(2017年 ロイター/Maki Shiraki)

[東京 30日 ロイター] - ホンダ<7267.T>が2015年末に納入を始めた「ホンダジェット」の売り込みを世界規模に広げている。燃費や居住性、静粛性などに優れる最新鋭のビジネスジェットで、20年末までに航空機事業の単年度黒字化を目標に掲げる。

しかし、世界市場の伸び悩みへの対応や生産体制の整備など「安定飛行」への課題はなお少なくない。

<新しい価値>

「順調に増えている」――。06年から始めた受注は100機超。航空機事業を手がける子会社ホンダエアクラフトカンパニーの藤野道格社長は販売拡大に手応えをみせる。約30年かけて開発した最大7人乗り(乗員1人含む)で、1機450万ドル(約5億円)。2月末で33機を納めた。

顧客は経営者や富裕層など個人が中心で、今後は複数機まとめて購入するチャーター会社など法人にも力を入れる。現在は最大市場の北米が受注の約8割を占めており、欧州や中南米でも販売、今後は中東やアジアでも検討する。4月には中国で開かれる、アジア最大のビジネス航空ショーに初出展して反応を伺う。

「キャビンは小さいが、新しく静かで、より効率的だ」。ジェット機管理会社クレイ・レーシー・アビエーション(米カリフォルニア州)のリチャード・ホドキンソン副社長は、ホンダジェットをこう評価する。「チャーターに多く利用される、音がカタカタ鳴る古いターボプロップ機に代わる新機種として提供できる」と関心も強い。

1970年代、米国の車産業に小型で燃費の良い車という新しい価値をもたらしたホンダの車「シビック」のように、今度はホンダジェットで航空機産業の常識を覆し、利用者の時間の使い方を変えるという新しい価値を提供して需要を創出したい、と藤野社長は意気込む。

<景気変動>

ただ、その価値が景気変動を受けやすい市場動向に打ち勝てるかどうかだ。一般航空機製造業者協会によると、世界のビジネスジェット(定員20人まで)市場はリーマンショックの翌年09年から減少傾向で、16年の出荷は前年比7.9%減の661機。米セスナやブラジルのエンブラエルなど競合もここ数年、軟調に推移している。

航空機販売関連会社ジェットクラフトの納入見通しでは、ホンダジェットの属するクラス(超軽量ジェット機)は18年が17年見込み比5.4%減の105機、19、20年は107機で横ばい、21年は110機、22年以降は80機以下で減少基調だ。

航空関連コンサルティング会社ティールグループの予測では、ホンダジェットと競合するクラス(1機400万―900万ドル)は今後10年先も毎年200機レベルの生産にとどまり、ホンダジェットも40機以下で推移するとみている。

<黒字化には時間も>

黒字化には想定以上の時間がかかるとの声も上がる。ティール社のアナリスト、リチャード・アボウラフィア氏は、生産や販売が拡大するにつれ「投資が増えることはよくある」と指摘する。ホンダは開発費を公表していないが、同氏は2000年代初期からの開発費は約10億ドル、同クラスの典型的なジェット機(約4億ドル)の倍以上と試算している。

販売・整備は各地域で多くの信頼ある契約ディーラーに任せ、どこからでも90分以内にアフターサービスを受けられるなど万全な体制を整えた。一方、競合には自社の営業マンが直接販売し、自前で整備工場も持つ企業もある。投資はかかるが、サービス品質を統一できるなどの利点がある。

ホンダもディーラーと情報共有を密にし、直販に劣らないサービス品質の提供と営業活動を今後も続ける方針だが、同氏はホンダが将来的に「機種を増やして販売を伸ばしたいなら(直販もしないと)商機を逃す」と話す。

生産体制も道半ばだ。昨秋は生産ペースが月2―3機と想定より遅れた。部品の品質が安定せず、取り付け直して飛行試験を繰り返したことなどが一因。組み立て工の習熟度もネックで、訓練で技能を高めている。生産を段階的に増やし、19年度には月6―7機と年80機体制を目指す。

<ブランド向上に貢献>

米ノースカロライナ州にあるホンダジェットの納機場。照明の明るさや角度、壁に張られたタイルの大きさなどすべてが機体を美しく見せるために計算されている。藤野社長は「一生に何度もあることではない」航空機を購入する瞬間の演出にもこだわった。

ターンテーブルに乗ってゆっくり回る機体は、まるでモーターショーで初披露される高級車のようだ。顧客はガラス張りのエレベーターで機体を眺めながらシャンデリアの輝きがまぶしい2階の部屋に移動し、契約を交わして鍵を受け取る。藤野社長はその場に立ち会い、時には顧客と食事をともにする。

創業者の掲げた夢に挑戦し続け、参入障壁の高い産業にゼロから道を拓いた「ホンダらしさ」の象徴とされるホンダジェット。ホンダ全体のブランド向上に貢献できるうえ、最新の安全基準を満たした技術は「車にも応用できる」(藤野社長)。ホンダの八郷隆弘社長も黒字化までは「少し長い目でみている」。

(白木真紀、田実直美 編集:田中志保)

ロイター
Copyright (C) 2017 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米GDP、第1四半期は+1.6%に鈍化 2年ぶり低

ビジネス

ロイターネクスト:為替介入はまれな状況でのみ容認=

ビジネス

ECB、適時かつ小幅な利下げ必要=イタリア中銀総裁

ビジネス

トヨタ、米インディアナ工場に14億ドル投資 EV生
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 3

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 4

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中