ニュース速報

アングル:サウジの原油供給は安定的か、数週間は不透明

2019年09月21日(土)11時55分

[ロンドン 19日 ロイター] - サウジアラビアの石油施設攻撃で世界的な原油需給ひっ迫が起こるのを同国が本当に防げるかどうかが分かるのは、数週間先になる──。石油トレーダーや専門家はこうした見方をしている。足元ではサウジが保有する原油在庫が供給不足の穴埋め役を果たし、施設の被害状況もまだベールに覆われているからだ。

14日の2つの石油施設への攻撃により、サウジはおよそ日量570万バレルの原油が生産できなくなった。同国政府は、原油生産量は2─3週間で通常の水準、つまり日量約1000万バレルに戻るとの見通しを示すとともに、施設を復旧するまでは国内外に保有する在庫で市場の需要に応じ続けると約束している。

ただトレーダーや専門家は攻撃されたアブカイクとクライスの施設が速やかに元通りになるかどうか懐疑的で、サウジの在庫データに不透明な部分があることから、果たして市場の需給を安定させ続けられるかも明確ではない。

ある欧州系商社の幹部は「10月到着予定の原油の多くは既に積み出されて洋上にあるので、供給の穴が表面化するのは10月終盤になるだろう。市場では既に買いが殺到しているが、現物の確保を急ぐ動きが出てくるのはこれからだ」と語った。

では先を争って現物を押さえる動きがいつ出てくるかは、サウジが持つ在庫の規模と、その在庫で顧客にどれだけの期間、完全に供給し続けられるか次第になる。

共同石油統計イニシアチブ(JODI)によると、サウジが国内外に保有する原油在庫は最新データである7月分が800万バレル減の1億8000万バレルだった。

しかしベテランの石油トレーダーの1人は、JODIのデータが正確かどうかは「大いに不明」で、衛星写真を用いて在庫を分析する企業のデータを参考にすると、地上に保管されている原油の規模はJODIのデータより小さいように見えると付け加えた。

このトレーダーは、国営石油会社サウジアラムコの子会社ATCが石油製品購入に動いていることも、在庫水準が十分ではないとの疑いを強める要因だとみている。

<需給ひっ迫>

同トレーダーは「(サウジが)過去20年で数百億ドルを投じて地下貯蔵施設を建設したとのうわさが出回っていた。だがそれならどうしてATCが石油製品を買っているのか」と指摘した。

複数の関係者の話では、アラムコはアラブ首長国連邦(UAE)で少なくとも12万バレルの軽油を購入した。この動きが、石油施設への攻撃と因果関係があるかどうかは分かっていない。

ブラック・ゴールド・インベスターズ創業者で石油業界の経験が長いゲーリー・ロス氏によると、石油施設の復旧スケジュールに関しサウジが「過度に楽観的」になっていると確信しない方が難しい。同氏は「需給ひっ迫局面が訪れつつある」と警告している。

アラムコのナセル最高経営責任者(CEO)は、同社が国内に6000万バレル余りの原油在庫を保有していると述べた。海外保有分は明らかにしていないが、沖縄やロッテルダムなどには同社の貯蔵施設がある。

それでもこうした在庫が一体どのぐらいのペースで減っているか疑問は残ったままだ。Karrosの推計では、今月15日から16日までだけでサウジの国内在庫は1000万バレル近く目減りした。

一部の大口顧客は既に調達先を切り替えている。中国石油化工(シノペック)のトレーディング部門は今週、米国から少なくとも4隻の原油タンカーをチャーターした。

<油種変更>

サウジが「量」の面で顧客への供給を維持できたとしても、同一の品種を提供するのに苦戦する可能性を示唆する材料がいくつか出てきている。これは軽質油ないし重質油といった特定の品種を扱うことが多い製油業者にとって大事な問題になる。

攻撃されたアブカイクの施設は、「アラビアンライト」や「アラビアンエクストラライト」といった油種の重要な処理拠点だった。

こうした中でアラムコは、少なくともアジアの6つの製油業者に対して、10月中も約束した量を供給すると伝えたものの、うち2社は油種の変更を申し渡された。

2人の関係者は、インドのリライアンス・インダストリーズは攻撃があった直前にアラビアンライトを積み出す予定だったのだが、代わりに「アラビアンヘビー」を入手していると述べた。

この関係者の1人によると、韓国や日本などの製油業者にも油種変更要請があったという。

主にエジプトのシディ・ケリルから出荷されるアラビアンライトを利用する欧州とトルコの製油業者は最もリスクが高い。事業に詳しい業界関係者は、少なくとも欧州の大手製油業者1社はまだサウジから10月の積み出し日程を聞かされていないと話した。

アラムコのある関係者は17日、アブカイクの施設が既に日量200万バレルの処理を行っていると明かした。攻撃前の処理量は490万バレルだった。

それでもアラムコは、攻撃を受けた2つの施設の被害程度に関して詳しい情報を公表していない。攻撃による火災を目撃した人の話や、衛星写真などを見ると、果たして早期復旧ができるのか懸念が増すばかりだ。

(Julia Payne、Dmitry Zhdannikov記者)

ロイター
Copyright (C) 2019 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:道半ばの中国「社会保険改革」、企業にも個人に

ワールド

昨年の関税合意実施を米と確認、日本が不利にならない

ビジネス

米国株式市場=続落、ダウ453ドル安 原油高と雇用

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、スイスフランに逃避買い
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国はイランを見捨てた? イランの「同盟国」だったはずの中国が、不気味なまでに静かな理由
  • 2
    日本の保護者は自分と同じ「大卒」の教員に敬意を示さない
  • 3
    10歳少女がライオンに激しく襲われる...中国の動物園で撮影された「恐怖の瞬間」映像にネット震撼
  • 4
    「みんな一斉に手を挙げて...」中国の航空会社のフラ…
  • 5
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 6
    「巨大な水柱に飲み込まれる...」米海軍がインド洋で…
  • 7
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 8
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 9
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗…
  • 10
    【WBC】侍ジャパン、大谷翔平人気が引き起こした球場…
  • 1
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 2
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 3
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 4
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 5
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 8
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 9
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 10
    「若い連中は私を知らない」...大ヒット映画音楽の作…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中