<首都圏や関西のエスカレーターで定着した「片側空け」の慣習は、必要以上の混雑や威嚇行為につながっている。「恐怖」が支配する現状は、一度リセットした方がいい>

駅などのエスカレーターで、立って乗る人は左側に寄り、右側は歩いて上る人たちのために空けておく慣習が東京で広まったのは1990年代半ばのことのようだ。

初めてその光景を見た時、私は日本でもこういう慣習が広まって良かったなと思った。それ以前には、約束の時間に遅れそうになっているときに、混み合ったエスカレーターでイライラしたこともたびたびあり、本当に急ぐときは階段を駆け上がっていた。ロンドンの地下鉄では立つ人はエスカレーターの右側に乗り、左側は急ぐ人が歩くというマナーが定着していると新聞で読んでうらやましいと思った。

だが、最近10年ぐらいはこの「片側空け」はやっぱりやめてほしいと思うことが多くなってきた。急いでいきたいという気持ちが弱まってきたこともあるが、この慣習が時にかなり不合理で理不尽だと思うようになってきたからだ。

右側に立たざるをえない人もいる

例えば1階から4階に一気に上がるような長いエスカレーターの場合、それに乗る人の95%以上は立って乗りたいと思っている。だが歩く人のために右側を開けておく必要があるため、左側に乗る人はエスカレーターの前で長い行列を作ることになる。一方、歩いて上る人はごく少数なので右側はガラガラである。いかにも非効率な乗り方だ。

また、子供がまだ幼いとき、親はエスカレーターの乗り方を教えようとして手をつないでエスカレーターに二人並んで乗る。一般には幼児の方が右側に立つことになる。すると、十中八九、エスカレーターの右側を足音高く歩いて上ってくる人がいて、その人は幼児の後ろで止まるどころか、そのまま幼児を突き飛ばしてでも追い越そうとする。幼児のうしろで、「どきなさいよ!」と叫ぶ人もいる。

幼児を持つ親の誰もがおそらく何度かそのような恐怖を経験し、その後は幼児とのエスカレーターの乗り方を工夫するようになる。まず手をつないで乗ったら、すかさず幼児を左側のステップに移動させる。買い物袋や赤ちゃんを抱えて大変そうな親が、幼児をそうやって移動させている姿を目にするとき、エスカレーター片側空けの慣習を恨めしく思わざるをえない。

NHKの報道「エスカレーター 止まって乗りたい」によれば、体の障碍によって左手で手すりをつかめないために右側に立たざるをえない人たちもいるが、そうした人たちに対しても後ろから「どけよ!」と容赦のない声が浴びせられるという。

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ところ変われば慣習も変わる ロシア・サンクトペテルブルグの地下鉄駅。下りは左側を歩いていく人のために空け、上りは2列で乗っている (筆者撮影)
鉄道会社は「歩行は危険」の立場