そしてここで特に注目したいのは、その後合併したJPモルガン・チェースが、急拡大するCDOやCDSの領域でライバル銀行に遅れをとるようになるということだ。この銀行には、信用リスク管理こそが強みだというJ・P・モルガン時代の理念が引き継がれていたため、企業向け融資とはまったく違う住宅ローンの証券化に慎重になったからだ。そこで銀行が打ち出した方針は、この映画の世界と深く結びつくことになる。

彼らの行動が被害をさらに大きくした?

 住宅市場のリスクを察知した銀行は、未売却の住宅ローン債権を減らし、自社の住宅ローン担保債で発生したデフォルトの損失保証を手当てするCDSを買い始める。「そうした住宅ローン・デリバティブは数年前にはほとんど存在していなかったが、急速に存在感が高まっていた」。それは、この映画に登場するような人々が、CDSで賭けに出ていたからだ。しかもこの方針は、市場にまで大きな影響を及ぼす。住宅市場はいまだに強気で、CDOの需要に供給が追いつかず、CDS契約がその優れた代替品になっていく。

『マネー・ショート 華麗なる大逆転』。クリスチャン・ベールの演技にも注目。

 「というのも、少なくともJPモルガン・チェースのようにリスクヘッジのためにそれを買う者がいる限り、こうした商品をどれだけ作ろうとも制約はなかったからだ。皮肉なことに、JPモルガン・チェースがサブプライムローンに対して慎重な立場を取ったことで、他社は住宅ブームの中、資産の裏付けのある債券だけに縛られていた時代には不可能であったほど大量の住宅ローン・デリバティブのリスクを抱え込むことになった」

 こうした背景を踏まえるなら、ウォール街とアウトローたちの大勝負は、単純で痛快なドラマになるはずもない。彼らの行動が被害をさらに大きくしたと見ることもできる。それだけに、ドラマには複雑な感情が滲む。無名の資本家コンビを支援したベンは、破綻によって私財を失う人々を思い、狂喜するふたりを厳しくたしなめる。ヘヴィメタ好きのマイケルは、湧き上がる感情をぶつけるようにドラムを叩く。強い道徳観を持つマークは激しい葛藤に苛まれる。

 ジリアン・テットは前掲同書でJ・P・モルガンのチームが生み出した革新的な金融商品について以下のように書いている。

「彼らの生み出したコンセプトは世界中に広がり、模倣され、住宅ローン金融における証券化という別のイノベーションと運命的に結びついてしまった。その結果、巨大な信用バブルの発生・膨張とその後の恐るべき金融崩壊の両局面において、決定的に重要な役割を果すことになったのである」

 この映画の主人公たちが、そんな流れのなかでそれぞれにどのような役割を果たしたのかを考えてみると、ドラマがより深いものになるだろう。

●参照/引用文献

『世紀の空売り 世界経済の破綻に賭けた男たち』マイケル・ルイス 東江一紀訳(文藝春秋、2010年)

『愚者の黄金――大暴走を生んだ金融技術』ジリアン・テット 平尾光司監訳・土方奈美訳(日本経済新聞出版社、2009年)

●映画情報

『マネー・ショート 華麗なる大逆転』

監督:アダム・マッケイ

公開:2016年3月TOHOシネマズ 日劇ほか全国公開

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