2016年のヒューゴー賞長編部門の受賞作は、フェミニストで人権問題での発言が多い黒人女性作家N・K・ジェミシンの『The Fifth Season』だった。黒人として初めてのヒューゴー賞受賞者だ。

 ラビッド・パピーズのリーダーVoxは、かつて自分のブログでジェミシンのことを「半野蛮人(half-savage)」と呼び、「我々は、明白な歴史的理由で、彼女(ジェミシン)のことを、完全に文明化された存在だとみなしていない。彼女は文明人ではない」とまで書いていた。アメリカのSF界ではよく知られている事件だ。

奴隷の歴史を反映

 受賞作の『The Fifth Season』は、非常に複雑なファンタジーだが、読み進めるうちに、アメリカの奴隷の歴史を反映しているのがわかる。

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 タイトルの「The Fifth Season」とは、遠い未来の地球で人類が滅亡に向かう終末期である。人類は過去に達成した高度な技術や文化を深く地下に埋め込んだ地表で細々と生き延びている。そして人類の敵は、怒れるFather Earth、つまり地球そのものなのだ。

 Father Earthは、自分を粗末に扱い、傷つけてきた人類を、地震や火山活動で全滅させようとしている。それを鎮めることができるのは、外見はふつうの人と変わらないミュータントのOrogene(オロジェン)だ。

 だが、生まれつき異常な能力を持つOrogeneを、人々は異質なものとして恐れ、蔑み、殺そうとする。一方で、人は人類存続のためにOrogeneを利用する。

 だから、Orogeneとして生まれた子どもの宿命は2つしかない。見つけた大人に殺されるか、Fulcrumという組織でトレーニングを受け、人類存続のために働くかのどちらかだ。たとえFulcrumでトレーニングを受けて熟練したOrogeneになっても、普通の人間のような自由もなければ、尊敬も得られない。Orogeneには1人のGuardianがつき、Guardianに背くと即座に死が待っている。そして、人々を救っても、見下され、蔑称で呼ばれる。

 Orogeneの葛藤は、アメリカの歴史で虐げられてきた黒人が体験する「不条理」を反映しているように思えてならない。そのせいなのか、ジェミシンの描く世界はとことん暗い。親子や恋人同志の関係の描き方からも、人間への徹底的な不信を感じる。

 読んで明るくなるような作品ではないが、壮大な世界観であり、読みごたえがある。

これからも戦いは続く