2018年のサッカーW杯はロシアで開催されることが決まったばかり。そして今、南部チェチェン共和国がW杯の試合を行いたいと名乗りを上げている。


 チェチェン共和国といえば、長年独立を目指してロシアと戦ったイスラム系住民が中心の地域。大統領の暗殺や追放を経て、現在ではロシア政府の傀儡といわれるラムザン・カディーロフが、ウラジミール・プーチン首相の「指名」で首長(共和国大統領から改称)として君臨している。


 このカディーロフの評判はすこぶる悪い。チェチェン人武装勢力出身で、現在チェチェンで恐怖政治を敷いている。カディーロフはテロとの戦いを口実に独自のイスラム的模範を国民に押し付け、チェチェンでは武装勢力による反カディーロフ(そして反ロシア)のテロ事件が日常的に発生。今年8月末、カディーロフの故郷の村が武装勢力に襲撃され、10月にも首都グロズヌイの議会庁舎が襲撃されて特殊部隊と武装勢力が銃撃戦になった。


 それだけではない。権力に対して命がけで立ち向かうロシアのジャーナリストたちを追った『暗殺国家ロシア』(福田ますみ、新潮社刊)では、チェチェン当局による迫害をロシアの独立系全国紙で実名告発したイスラム教徒の行方不明事件が紹介されている。カディーロフは「さながら、広域暴力団組長のような大統領」とも呼ばれているという。

 本誌の記事では、「ヒューマン・ライツ・ウォッチによれば、チェチェン戦争が終結したとされる02年以降に治安当局によって『行方不明』になった人は2万人以上に達する」という。ドミトリー・メドベージェフ大統領は昨年、チェチェンがロシア国内最大の政治問題であると発言している。

 さらにロシアでは最近、極右フーリガンによる暴動が発生。民族主義の極右と、熱狂的(で暴力的)なサッカーファン、いわゆるフーリガンが一緒になって暴徒化したのだ。この極右フーリガンは、カフカス地域の出身者たちと衝突して死傷者を出している。チェチェンでW杯の試合が開催されたら、こうしたフーリガンも乗り込んでくるだろう。


 カディーロフは「新しいスポーツ施設を建設中で、試合開催を提案するのは自然なことだ」と公式サイトで発表。だがチェチェンでW杯の試合が行われたとしても、観戦に行くには勇気がいりそうだ。


ーー編集部・山田敏弘