では、一体どうやってトランプ氏は物価を沈静化するのかというと、今回の就任演説では具体的に2つの手段を宣言していました。1つは「化石燃料を掘って掘って」エネルギーコストを下げるという政策、もう1つは「政府の過剰支出をカットして」物価を下げるというものです。

これはこれで興味深い宣言です。まずエネルギーに関しては、以前は頻繁に口にしていた「ウクライナ和平による原油価格の沈静化」を今回は言いませんでした。このことは、簡単には停戦に持っていけないという現実に歩み寄ったことを示している、そのような印象を与えます。

また政府の支出カットというのは、イーロン・マスク氏の担当する連邦政府のリストラを「調達が絞られて需要が減り物価が下がる」というレベルまで徹底するという宣言に聞こえます。これはこれで強硬な発言であることは間違いありません。ですが、この2つを実施しても物価が簡単に沈静化するとは考えにくいと思います。また、物価に影響するぐらいに政府の調達を絞っては構造不況業種が生まれてしまいます。

ギャンブル性の高い公約

このように、現在のアメリカでは物価の沈静化というのは非常に難しいわけです。また、バイデン政権がインフレ率を下げても誰も評価しなかったように、国民には「高止まりした物価を下げて欲しい」というのが強い期待としてあります。物価上昇率がゼロでは期待外れ、マイナスにして初めて評価される、という感覚はまだまだあります。

そのような困難を抱えているにもかかわらず、トランプ大統領は、国民の期待は「物価問題」だとして、就任演説で大きく取り上げて国民に対して約束をしたのです。これは、政治家の姿勢としては豪胆であるとしか言いようがありません。ただ、裏を返せば、ギャンブル性の高い政治姿勢でもあります。結果が出なければ、別の過激な政策で「劇場型政治」をエスカレートするしかなくなります。

バイデン政権が物価高騰によって崩壊したのに続いて、今度はトランプ流の物価対策について、その手腕が問われる局面が始まったのです。

【関連記事】
ロス山火事で崩壊の危機、どうなるアメリカの火災保険
日鉄はUSスチール買収禁止に対して正々堂々、訴訟で勝負すればいい

ニューズウィーク日本版 台湾有事の新シナリオ
2026年4月21号(4月14日発売)は「台湾有事の新シナリオ」特集。

米・イラン戦争で変わる地域紛争の「大前提」/石油危機を恐れるべき理由

※バックナンバーが読み放題となる 定期購読はこちら
※画像をクリックするとアマゾンに飛びます