<トランプが次期FRB議長に指名したケビン・ウォーシュは、市場に動揺ではなく「信任」をもたらした可能性がある>

米国のドナルド・トランプ大統領は、次期フェデラル・リザーブ(FRB)議長にケビン・ウォーシュを指名すると確認した。この人事は、トランプとFRB、そして現議長ジェローム・パウエルとの対立が続く中で、ここ数カ月注目を集めてきた。

1月30日朝の発表直後、市場は即座に反応し、金と銀の市場は大きく下落した。数カ月にわたって最高値を更新し続け、割高感が強かったこともあり、金のスポット価格は9%、銀は28%下落した。米国株式市場も下落し、主要株価指数はいずれも小幅なマイナスとなった。

しかし、トランプによるFRBへの介入が強く懸念されていた状況を踏まえると、市場の急落は皮肉にも、ウォーシュの独立性と適性に対する早期の信任投票と理解することができる。

その理由を理解するには、トランプとFRBの対立、そして現代の世界金融システムにおける中央銀行の独立性の重要性を踏まえる必要がある。

トランプとFRBの戦争

この1年、トランプは前例のない形でFRBと対立してきた。

トランプは2017年にジェローム・パウエルを議長に指名した。しかし、パウエルがトランプの望むペースで利下げを行わなかったことで、関係は急速に悪化した。トランプは、パウエルを「道化」や「本当に精神的な問題がある」などとけなし、「やつをクビにしたい」とまで発言してきた。

この応酬は法的な脅しにまで発展した。司法省は、過去の住宅ローン関連文書における不正疑惑を理由に、FRB理事リサ・クックに対する調査を発表した。さらに先月には、FRB本部の改修工事における過剰支出を巡り、パウエルに対する刑事捜査を開始するという衝撃的な展開もあった。

これらの疑惑はいずれも根拠に乏しいと広く受け止められている。それでもトランプは、この調査を理由にクックを解任しようとしてきた。この件は現在、最高裁判所で審理されている。

パウエルはこれに強く反発し、法的圧力について「FRBが大統領の意向では動かず、公共の利益についての最善の判断に基づいて金利を決めている結果だ」と述べた。

世界各国の中央銀行総裁14人がパウエルを支持し、「中央銀行の独立性は、物価、金融、経済の安定の礎だ」と指摘した。

1970年代の米国では、政権の圧力で金融緩和が優先され、インフレ抑制が後手に回った結果、景気停滞と物価高が同時に進むスタグフレーションが深刻化した。近年でも、トルコやアルゼンチンでは、中央銀行が政治の影響を受けるとの見方が広がると、通貨安とインフレが加速し、市場の信認低下が金融不安につながった。

ケビン・ウォーシュとは何者か

ケビン・ウォーシュは元銀行家で、FRB理事を務めたこともある。ジョージ・W・ブッシュ大統領とトランプ大統領の双方に経済顧問として仕えた経歴を持つ。

当初、トランプは自身の国家経済会議(NEC)のケビン・ハセット委員長を起用する可能性が高いと見られていた。ハセットはトランプの影響を強く受けていると見られ、市場ではFRBの独立性への懸念が強まっていた。

その点、ウォーシュはより独立的と見られ、インフレと戦う「タカ派」としての評価がある。

インフレ・タカ派とは何か

FRBは米国の金利を決定する責任を負っている。単純化すれば、低金利は経済成長や雇用を押し上げる一方、インフレを招くリスクがある。高金利はインフレを抑制できるが、失業率の上昇や成長鈍化という代償を伴う。

この微妙なバランスを取ることが、FRBの中核的な役割だ。その判断が政治家の都合ではなく、データと長期的な経済の必要性に基づいて行われるためには、中央銀行の独立性が不可欠だ。

インフレ「タカ派」とは、成長や雇用を重視する「ハト派」と比べ、インフレ抑制を優先する中央銀行関係者を指す。

ウォーシュは過去にFRBに在籍していた際、強固なインフレ・タカ派としての評価を確立した。2008年の世界金融危機の直後でさえ、雇用よりもインフレを懸念していた。

金利引き下げを巡ってパウエルと対立してきたトランプの過去を考えると、ウォーシュの起用は一見すると奇妙にも映る。

最近では、ウォーシュは見解をやや修正し、FRBに対するトランプの批判や利下げ要求に同調する発言もしている。この姿勢が今後も続くのか、それとも再びタカ派的な姿勢を強め、トランプと対立するのかは、まだ分からない。

市場の反応

金と銀の急落、そして株式市場の下落は、ウォーシュの下では、他の候補者と比べて利下げの可能性が低いと投資家が見ていることを示唆している。

金や銀の価格は通常、不安定化やインフレ懸念に反応して上昇する。

これまでの最高値更新は、世界的な不安定さ、FRBの独立性への懸念、投機的なバブルなど、複数の要因によってもたらされていた。

ウォーシュの指名によって貴金属市場が調整局面に入ったということは、投資家がインフレ低下と金融の安定性向上を見込んでいることを意味する。米ドル高も、この見方を裏付けている。

問われるFRBとドルの信認

この1カ月、世界秩序の変化を巡る議論が活発化している。カナダのマーク・カーニー首相は、国際的なルールに基づく秩序の終焉を嘆き、「米国の覇権」からの脱却を訴えた。

米ドルの世界的な支配力は、米国の経済覇権を支える重要な柱だ。トランプは中央銀行の独立性に懐疑的な姿勢を崩していないものの、ウォーシュの指名は、ドルとFRBの信認を維持する重要性を認識しているためかもしれない。

その認識が、金利への介入というトランプの本能を今後も抑え続けるのかどうかは、依然として見通せない。

The Conversation

Henry Maher, Lecturer in Politics, Department of Government and International Relations, University of Sydney

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

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