<中国から押し寄せる大量の激安衣料品を抑え込むべく、ヨーロッパ各国は次々に規制に乗り出している──>

ご存じだろうか。コットンのTシャツを1枚作るのに約2700リットルの水を使う。これは1人がほぼ3年間に飲む量に相当する。

流行の服を安く提供するのがファストファッションの強みだが、その裏には見過ごせない現実がある。ヨーロッパでは消費者1人が年間12キロの繊維ゴミを出し、うち新しい服に再生されるのは1%だけだ。

目まぐるしいサイクルで安価な服を大量に生産するファストファッション。その圧倒的な物量とスピードにブレーキをかけようと、ここ数年EUとヨーロッパ各国がさまざまな施策を導入している。

EU

EUの共通税制である付加価値税(VAT)は22ユーロ未満の低額製品には免除されていた。そのため低価格の中国系Eコマース・SHEIN(シーイン)やTemu(テム)の大攻勢に対し、EU域内のアパレル企業が競争上不利になっていた。

そこでEUは規則を改正。2021年7月以降はEU域外からの全輸入品にVATを課すことになった。

欧州委員会はさらに全ての輸入貨物に2ユーロの通関手数料を課すことも検討している。また現状では150ユーロ未満の少額貨物には関税が免除されているが、この免税措置の撤廃も検討されている。

こうした措置は、労働者を酷使し、環境を汚染する製法で生産されたアパレル製品への規制強化につながり、中国勢をはじめファストファッション企業に大きな影響を与えるとみられる。

フランス

フランスはヨーロッパ各国に先駆けてファストファッションを規制する課徴金制度を導入した。

これにより「ウルトラファストファッション」に分類されるテムなどの格安Eコマースは衣料品1点につき5ユーロの課徴金の納付を義務付けられる。課徴金の額は段階的に引き上げられ、30年には10ユーロとなる。企業は課徴金分のコストを製品価格に転嫁せざるを得ないだろう。

フランス政府は今回の規制で明白なメッセージを打ち出した。それは「1シーズンしか持たないような激安の衣料品を売る企業は環境に与えるコストを負担すべき」というものだ。

激安アパレルへの規制措置は、長く着用できる上質な服を作り、回収・リサイクルに取り組むなど環境負荷の低減に貢献する企業にとっては追い風となる。

良い服を長く着る時代に

修繕して長く使うことを奨励する方策を打ち出した国もある。スウェーデンは衣料品と靴の修繕費に対するVATを25%から12%に引き下げた。オランダもサイズ直しなどのVATを9%に下げている。

こうした施策の狙いは明らかだ。壊れたら新品を買うのではなく、修繕して長く愛用するほうが環境にも財布にも優しい──そんな「新常識」を定着させることである。

EUのVAT改正の影響は既に表れている。免税撤廃で公正な競争が担保され、格安Eコマースは価格設定やロジスティックス戦略の見直しを迫られている。修繕費のVAT引き下げは地域の零細な修繕業者の支援だけでなく、消費者の行動を変えつつある。

安い使い捨ての服を買いまくる時代は終わり、これからは多くの人が質の良い服を大切に長く着るようになるだろう。規制措置が定着すれば、ヨーロッパの繊維産業は「スローファッション」の騎手として世界をリードするはずだ。

The Conversation

Albert Navarro García, Profesor titular de Derecho Financiero y Tributario, Universitat de Girona

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

POINT(ニューズウィーク日本版SDGs室長 森田優介)

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変革には企業努力だけでなく政策の後押しも重要です。「負のインセンティブ」としては1991年にスウェーデンが導入し、CO2削減に寄与した炭素税が有名ですが、このVATもそれに近いものと言えるでしょう。
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