コロナ禍の狂気は猛威を振るい、やがて映画全体を乗っ取る。終盤の20分ほど自由奔放でイカれた映像を、これまでアスターはスクリーンに焼き付けたことがない。この血みどろの笑劇には、コーエン兄弟も「よくやった」とエールを送るだろう。

ジョーが世界と対峙しようと体の向きを変えれば、カメラも一緒に向きを変える。聞こえるのは彼の肺の中のぜえぜえという息遣いだけ。観客の私たちは彼がコロナの熱に浮かされて見た夢に吸い込まれ、出られずにいるようだ。

『エディントン』は癇(かん)に障るし、マスク着用や警察の暴力をめぐって対立する人々をやや極端に描きすぎてもいる。

ベタなギャグや文化や歴史からの引用が満載され、とても1度の観賞では拾い切れない。だが2度も見るのはよほどのマゾか、物好きだけだろう(幸い私はどちらにも当てはまる)。

アスターが目指したのはアメリカ社会に染み付いた精神の病、いわば慢性化した魂のコロナをあぶり出すこと。それはワクチンも身を守る術もなく、距離を取ればむしろ悪化するタチの悪い病気だ。

EDDINGTON

エディントンへようこそ

監督╱アリ・アスター

主演╱ホアキン・フェニックス、ペドロ・パスカル

日本公開は12月12日

©2025 The Slate Group

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