「風が吹けば桶屋が儲かる」ということわざが、私は好きです。若者たちがいる場所で、このことわざを披露したところ、誰もこのことわざを聞いたことがなく、己の加齢を思い知ることになった経験もあるのですが、このウェブサイトをご覧の方には、わざわざ解説する必要はないでしょう。

 これは、思いもかけない因果関係が働くという意味ですが、このことわざ自体の因果関係は、笑いをとるためのこじつけです。でも、経済や社会は、思いがけない因果関係によって動いています。北京で蝶が羽ばたくと、ニューヨークで嵐が起こるというたとえも面白いですね。こちらは、むしろ複雑系の話ですが。

 本誌日本版6月23日号は、「メキシコ湾で原油流出が続くと、イギリス人の年金が減る」という因果関係に触れています。

 深刻な事態が続く原油流出。イギリスの国際石油資本BPに対するアメリカ国民の怒りは増すばかり。オバマ政権は、怒りが政権に向かうのを避けるためもあって、BPに対して多額の補償を支払うように求めています。

 こうなると、BPの経営にも深刻な影響が出てきます。本誌の特集記事「深海に賭けたBPとオバマの誤算」によると、昨年BPが株主に払った配当総額は100億ドルに上り、イギリスで支払われた配当全体の約14%を占めたといいます。

 「イギリスではほとんどすべての年金基金にBP株が組み込まれており、国内で1800万人、人口の30%が何らかの形で同社の株式を所有しているといわれる」

 BPは、それほどまでに大きな存在なのですね。原油流出が続けば、BPの支払いは増え、高配当は維持できなくなります。配当金の支払いが減れば、イギリスの年金基金の収入も減りますから、イギリス人への年金支払い額も減ることは明らか。

 この因果関係は、「風が吹けば桶屋が儲かる」よりも明白でしょう。

 こうなると、米英関係にも微妙な影を落としそうですね。アメリカでは「BP憎し」の風潮が広がってBP叩きがエスカレートしています。これをイギリスの一般国民から見れば、「アメリカ人が不当な要求をすることで自分の年金支給額が減る」という思いに駆られかねないからです。

 かくして、「原油流出が続けば、米英関係が悪化する」という因果関係も成立しそうです。

 ここまで読んできた日本の読者にとっては遠い話かも知れませんが、そうとも言っていられません。メキシコ湾のような海底油田の掘削に頼らなければ、世界は原油を確保できない時代が到来しつつあります。メキシコ湾での惨事を教訓に、原油探査や掘削のペースが落ちれば、原油価格高騰になりかねません。

 今年の冬は、「メキシコ湾の原油流出で、日本のガソリン代が値上がり」という因果関係も成立するかも知れないのです。