<バイオサイエンスの急速な進化によって、人とそれ以外、生と死といった既存の境界がゆらぎつつある ......>

現行法では、生きている人やその組織、器官は、それ以外の生命体や死んだ人と異なるとみなされてきたが、バイオサイエンスの急速な進化によって、人とそれ以外、生と死といった既存の境界がゆらぎつつある。

たとえば、2018年11月には中国で「遺伝子を改変した受精卵から双子の女児を誕生させた」と公表。日本では、2019年8月、文部科学省が動物の体内でヒトの臓器を作製する研究プロジェクトの実施を承認した。

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遺伝子編集した双子の女児が誕生と主張の中国科学者に批判集まる

また、米国では、人工培養された脳がヒトのものと類似した脳波を発したことが確認されたほか、死後4時間経過したブタの脳の機能の一部を回復させることにも成功している。

●参考記事

人工培養された小さな脳がヒトと類似した脳波を発生

死後4時間、死んだブタの脳の機能の一部を回復させることに成功した

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法律上の「人」の定義が変わると、あらゆる人権の基盤に影響する

生きている人か否かは、法のもとで権利能力(権利を有し、義務を負う一般的な資格)が認められる「自然人」として扱われるかどうかにかかわる。

カナダ・マギル大学のバルタ=マリア・クノッパーズ教授と米スタンフォード大学のヘンリー・グリーリー教授は、2019年12月20日、学術雑誌「サイエンス」において、「すべてではなくとも、その特性が人である生命体、すなわち『実質的に人である』ことを判断基準に用いてはどうか」と提唱する論文を発表した。

この説によれば、人の特性を持つ生命体かどうかは重要だが、すべてが人の特性を持っている必要はない。たとえば、ヒト以外の組織が存在したとしても、法的に「自然人」として扱う。

法律上の「人」の定義が変わると、あらゆる人権の基盤に影響する。そこで、両教授は「基本的な法の概念を再定義するよりも、『実質的に人である』かどうかを判断の起点とすれば、現行法を柔軟に適用し、現行法のもとで自然人として扱い、保護できる」と説いている。

バイオテクノロジーが進化する時代への対応

もちろん、このアプローチは万能な解決策とはいえない。「不合理」や「最善」といった法律用語と同様に、「実質的」を特定の割合や特別な検査で客観的に計測できず、主観的な判断に委ねられてしまうからだ。

とはいえ、バイオテクノロジーがますます進化する時代において、裁判官や科学者、医師らにとって、法的な判断における一定の指針としては、今後、この説が有効に活用される機会も増えていきそうだ。

動画:「人」の定義がゆらぎつつあるサイエンスの事例