Tamiyuki Kihara Yoshifumi Takemoto
[東京 2日 ロイター] - 3日の米中間選挙の結果がトランプ大統領のアジア外交を変える可能性があるとして、日本政府内で警戒感が広がっている。複数の政府関係者はロイターの取材に対し、民主党が議会で勢力を伸ばした場合、トランプ氏が政治的遺産(レガシー)づくりを優先して北朝鮮や中国との関係改善に動く可能性があると指摘。東アジアのパワーバランスが大きく変化する恐れがあり、日本が難しい対応を迫られかねないと懸念を示した。
<深まった日米関係、揺らぐ前提>
「民主党が上下院どちらかでも制すれば、米の動向はより不確実性を増すことになる」。匿名を条件に取材に応じた日本政府関係者は、選挙を控えた心境をこう語った。2025年1月の第2次トランプ政権発足以降、日本は米関税の引き上げに伴う大規模な対米投融資を約束した。米金利上昇に起因するドル高の是正でも足並みをそろえるなど、2国間関係を深めてきた。
高市早苗首相は、トランプ氏と親密だった安倍晋三元首相の「後継者」を自任し、「日米同盟の新たな黄金時代」を目指す姿勢を鮮明にしている。高市氏の外交方針に詳しい首相官邸関係者は「トランプ氏と渡り合えるからこそ、世界における日本のプレゼンスは高まる」と述べ、良好な日米関係が日本外交の要だと強調した。
ところが、トランプ氏が今年2月にイスラエルとともにイラン攻撃に踏み切ると、米情勢は揺らぎ始めた。ガソリン価格の上昇が米国民の生活を直撃し、ロイター/イプソスの世論調査では、就任時に47%だったトランプ氏の支持率が、今年10月には過去最低水準の31%まで落ち込んだ。
<トランプ氏、外交で「レガシー」求める可能性>
別の日本政府関係者は、中間選挙が日本の対米外交の転機になるとみている。大統領の任期は残り2年ほど。仮に民主党が連邦議会で勢力を伸ばせば、トランプ氏は外交面での「レガシー」を求めるだろうという見立てだ。同関係者は、ノーベル平和賞の獲得を狙い、北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党総書記に働きかけて、休戦状態にある朝鮮戦争の完全終結に動く可能性すらあると語った。
その場合、米朝交渉に関わるのは中国やロシアといった大国に限られかねない。朝鮮半島の完全な非核化や、日本が特に重視する拉致問題の解決が、どこまで議題になるか見通せなくなる恐れがある。
台湾問題も大きな懸案だ。トランプ氏は今年5月に中国で習近平国家主席と会談して以降、米による台湾への武器売却を「非常に有効な交渉カード」と表現し、140億ドル規模の売却パッケージの承認を留保している。これを好機とみた中国が台湾への攻勢を強めれば、日本にとっては死活問題だ。前出とは別の官邸関係者は、「トランプ氏にとって台湾問題は対中外交のカードでしかない。いろいろと譲ってくるかもしれない」と懸念を示した。
米が中国、北朝鮮、ロシアといった国々と独自の外交を展開すれば、東アジアにおける日本の存在感が低下するのは避けられないと危惧する声も政府内にはある。別の政府関係者は、中間選挙後の日本の対米外交について、レガシーづくりに奔走するトランプ氏をどう説得し、台湾問題を含む東アジアの秩序を維持するかが問われると指摘。「これまで以上に日本の立場を強く米側に打ち込んでいかなければならない」としながらも、トランプ氏がその声に耳を傾けるかは未知数だと語った。
<日本、ピンチをチャンスに変えられるか>
専門家はトランプ政権任期後半の日米関係をどう見ているのか。上智大の前嶋和弘教授(米国政治)は、トランプ氏がアジア政策でこれまで以上に成果を求める可能性があると分析する。日本や韓国にさらなる防衛負担を求め、その成果を実績としてアピールする青写真を描くほか、米朝協議が再開されれば北朝鮮の核保有を事実上容認する展開もあり得るとし、「アジアの安保環境は大きく変わる。戦後かつてない大きな変化が、トランプ政権の残り2年で起きるかもしれない」と語った。
総額5500億ドル(約86兆円)の対米投融資についても、トランプ氏は早期実行を迫る可能性が高いと分析。「関税の話は終わっていない。日本の対応が遅れれば、追加関税論が再燃する可能性もある」と話した。
その上で、「安保が人質に取られている以上、投融資も防衛費も、できる範囲で応じるほかない」 としながらも、投融資や防衛力強化を通じた産業基盤の拡充や人材育成につなげる余地はあると指摘。「ピンチをチャンスに変えられるかが問われている」と述べた。
<日米同盟の高みを目指す考え変わらず>
木原稔官房長官は2日の記者会見で、日米関係の見通しに関するロイターの質問に、「一般論」と断った上で、日米同盟は日本の外交・安全保障政策の基軸だと説明した。「国際情勢が激動し、ますます不確実性を増していく中で、強固な日米同盟は日本の国益を最大化するためにも、国際社会の平和と安定のためにも不可欠だ」と指摘。「今後も日米両首脳、外相間を含むあらゆるレベルで緊密に連携し、日米同盟のさらなる高みを目指していく考えに変わりはない」と語った。
米連邦議会の現在の勢力は、下院が共和党218議席、民主党214議席、上院が共和党53議席、民主党47議席。民主党が多数派を奪還するには、上下院でそれぞれ4議席以上の純増が必要となる。世論調査では民主党が下院で多数派を獲得する可能性が高いとされる一方、上院は依然として接戦だ。ロイターが取材した米アナリストやストラテジスト、エコノミストらは、選挙結果にかかわらず、27年には連邦債務上限の引き上げや連邦政府予算を巡って両党が対立する公算が大きいとみている。
(鬼原民幸、竹本能文 編集:久保信博)