Kentaro Sugiyama
[東京 30日 ロイター] - 日銀が30日に公表した「経済・物価情勢の展望」(展望リポート)では、2%物価目標への「到達」を事実上認める一方、その「定着」を今後の政策運営の主眼に据える姿勢を鮮明にした。消費者物価の基調的な物価上昇率について「2%の物価安定の目標」とおおむね整合的な水準としつつ、上振れリスクへの警戒も維持した。市場では、12月会合での追加利上げの可能性を残すタカ派的なスタンスを維持したとの受け止めが広がっている。
基調的な物価上昇率が2%近辺に「到達」したことは、日銀にとって大きな節目となる。2013年の異次元緩和導入以降、日銀は2%物価目標の実現を追求してきた。植田和男総裁の下でも、賃金上昇を伴う形で物価目標が持続的・安定的に実現するかを見極める姿勢を示してきた。
ただ、今回の展望リポートでは、日銀自身が「到達」という表現を使っていない。基調的な物価上昇率については「2%の物価安定の目標とおおむね整合的な水準」との表現にとどめた。
楽天証券経済研究所の愛宕伸康チーフエコノミストは、そこに日銀の意図を読み取る。「到達」と表現すれば、2%物価目標の実現に向けたプロセスが一区切りしたとの印象を与えかねないためだ。日銀が伝えたかったのは、政策的な評価よりも「基調物価が2%近辺にある」という現状認識そのものだったとの見方を示す。
<局面転換はすでに始まっていた>
愛宕氏によると、金融政策運営の局面転換そのものは今回突然起きたわけではない。植田総裁は前回会合の会見で「局面が変化した」と説明した。これまでは基調的な物価上昇率を2%に向けて引き上げることが主眼だったが、現在は2%近辺で安定させることが重要な局面に移りつつあるという考え方だ。
その意味で、今回の展望リポートで注目されるのは2%近辺への到達を認めたことそのものよりも、その後の政策運営の考え方にある。
日銀はリスクバランスの分析で、基調的な物価上昇率について「2%の『物価安定の目標』を超えて上振れていくリスクがある」との表現を維持した。さらに金融政策運営についても、「基調的な物価上昇率を2%程度の水準で安定させていくという観点が重要になる」との記述を据え置いた。
愛宕氏は「今回の展望リポートで日銀の考え方そのものが変わったわけではない」と指摘。むしろ、これまで説明してきた政策運営の枠組みに、基調物価が2%近辺にあるとの認識が加わったに過ぎないとの見方だ。
愛宕氏は、前回7月の展望リポートでも同様の文言が盛り込み、9月利上げに踏み切ったことを踏まえれば「3カ月に1回利上げするというシグナルと受け取れる。12月に再び利上げを行う意思を示している可能性が高い」と話す。
<2%到達で変わる政策運営>
もっとも、基調物価が2%近辺に達したことは、金融政策運営に新たな意味合いももたらす。
SMBC日興証券の丸山凜途シニア金利・為替ストラテジストは「これまで利上げが多少遅れても、基調物価が2%に近づくだけという世界だった」と説明する。
しかし、すでに2%近辺に達したとの認識に立てば状況は変わる。利上げが遅れた場合、物価目標からの上振れにつながりかねないからだ。
丸山氏は「2%に到達していることが前提になれば、利上げが遅れることはこれまで以上に許されなくなる」という。日銀が今回、原油価格の前提を引き上げたことも踏まえれば、「適時適切な利上げの必要性はむしろ高まっている」とみる。
<勝利宣言はなお先>
日銀は2%近辺への到達を認めながらも、そのほかの記述には大きく手を加えなかったとの見方がある。
大和証券の末広徹チーフエコノミストは「2%とおおむね整合的な水準に達したこと自体は大きな変化だが、市場に『物価目標を達成して利上げ局面が終わった』と思われたくなかったのだろう」と話す。日銀は今回の認識変更が市場に与える影響を意識し、リスク認識や金融政策運営に関する表現の変更を最小限にとどめたとみる。
末広氏は「デフレとの戦いという意味で、日銀は少なくとも引き分け以上の結果は確保したと言える状況になった」と指摘する。一方で、「だからといって、もう十分だから利上げは必要ないという状況でもない」と語る。
市場では今後、追加利上げの有無だけでなく、最終的な政策金利の到達点にも関心が移る。中立金利を巡る不確実性は依然として大きいものの、日銀が正常化プロセスの終盤に差し掛かっているとの見方も徐々に広がっている。