Renee Hickman

[ガーデンシティ(カンザス州) 20日 ロイター] - 米中部カンザス州が最後に民主党員を上院に送り出したのは、94年前のこと。世界恐慌が同州の経済を襲い、小麦価格は暴落、干ばつによって大平原地帯は「ダストボウル」と化していた頃だ。時を経て今年、カンザス州で再び民主党上院議員が誕生する可能性が出てきている。

メガチャーチ(大規模教会)の牧師で民主党候補のアダム・ハミルトン氏は、米紙ニューヨーク・タイムズとシエナ大学共同の世論調査、エマーソン・カレッジによる調査でそれぞれ、共和党のロジャー・マーシャル上院議員と接戦を繰り広げている。2024年の大統領選挙で同州は、共和党候補のトランプ氏が57%超の得票率で勝利を収めていた。

予想外の接戦は、共和党の牙城における亀裂を反映している。民主党は、過去最高水準に迫るディーゼル(軽油)燃料価格など農業コストの高騰やトランプ政権の移民取り締まりに対する不満が、この地の「進歩主義的ポピュリズム」を再び呼び起こせるかもしれないと見込んでいる。

バンス・エムケさんと妻ルイーズさんが営む小麦農場と種子事業の事務所は、かつての穀物サイロを改装した建物だ。壁に掛けられた有名な絵画の複製から、カンザスで奴隷制に反対して武装蜂起した奴隷制度廃止運動家のジョン・ブラウンが鋭い眼差しを向ける。

南北戦争終結から20年後の1885年、バンスさんの先祖はカンザス州西部で農業を始めた。だが現在は、米国とイスラエルによる対イラン戦争に伴うコスト上昇を受け、自身や周辺の農場の暗い未来を憂いている。

「この1年で燃料価格はほとんど倍になった。そのせいで、5万ドル(約800万円)もの予期せぬ出費を強いられた」

<かさむ燃料・肥料コスト>

2月のイラン戦争開始以降、燃料と肥料の価格は急騰した。農業機械を動かすディーゼル燃料の価格は戦争開始以来で70%も上昇している。こうしたコスト高は、農業が地域経済の中心を占めるカンザス、アイオワ、ネブラスカなどの各州に大きな影響を及ぼしている。

引退する共和党ジョニ・アーンスト上院議員の後任を争う選挙となるアイオワ州では、共和党のアシュリー・ヒンソン下院議員と民主党のジョシュ・トゥレク候補が接戦となっていることが世論調査で示されている。ヒンソン氏は先月、ソーシャルメディアへの投稿で、「戦争の代償を、アイオワ州民がガソリンスタンドやレジで支払う必要はない」と訴え、イラン戦争の「即時終結」を求めた。

24年大統領選でトランプ氏が20ポイント超の大差で勝利したネブラスカ州でさえ、共和党のピート・リケッツ上院議員が無所属のダン・オズボーン氏と競り合っている。

民主党が上院の多数派を勝ち取るには、4議席の上乗せが必要だ。

<共和党有力者が苦戦する候補を支援>

トランプ大統領やバンス副大統領ら共和党の有力者は、中西部で苦戦する候補の応援に回っている。

トランプ氏は今月、ネブラスカ州で非課税軽油の利用拡大を約束。カンザス州ウィチタ近郊で19日に行った集会では、農務省が収穫期のディーゼル燃料費を補填するため、農家に80億ドルを支給する「収穫期燃料救済プログラム」を導入すると表明した。

牧師のハミルトン氏がカンザス州の農村部で支持を広げるには、なお大きな壁がある。エムケ夫妻の農場からほど近い場所には、マーシャル議員を支持する共和党員ロン・サペス氏の農場がある。

「過去にもディーゼル価格が高かった年はあった。どの政権下か、というのはあまり関係がないように思う。私はしばらく、この苦しみに耐えるつもりだ」とサペス氏は言う。

トランプ氏が優先する移民取り締まりも、9月下旬にカンザス州の食肉加工業界を直撃した。同州の連邦検事局によると、移民・税関捜査局(ICE)の捜査官がドッジシティ、ガーデンシティ、リベラルおよび周辺地域で104人を逮捕した。

一部の従業員は逮捕を恐れて出勤しなかったため、牛肉価格の高騰に対する有権者の怒りが高まる中、カーギルやナショナル・ビーフといった大手加工業者の操業を遅らせることにもつながった。

<有権者登録が急増>

この取り締まりはまた、伝統的に保守的なこれらの町の政治傾向にも影響を与えた可能性がある。ウィチタ州立大学アイク研究所のアレクサンドラ・ミドルウッド教授によると、ICEによる一斉摘発が行われた郡では、9月の有権者登録数が大幅に増加したことが分かったという。

9月22日、ドッジシティで食料品店を営むオスカー・ソトさんはソーシャルメディアで、ICE捜査官が町へ大挙しているとの投稿を目にし、衝撃を受けた。地域活動家グループに加わり、外出を恐れる家庭や、生計の担い手が逮捕された家族に食事を届けた。

このボランティア活動中に目にした光景が、39歳で初めて有権者登録をするきっかけになったと明かす。

「状況を少しでも変えるために、自分に何ができるのか。たどり着いた答えが投票だった」。ソトさんは民主党候補に投票する予定だと述べた。

24年の選挙でトランプ氏は、ヒスパニック系有権者のほぼ半数の票を獲得した。しかし、10月5日のロイター/イプソス調査では、トランプ氏の政権運営を支持するヒスパニック系米国人は24%にとどまっている。ピュー・リサーチ・センターによると、24年のカンザス州有権者に占めるヒスパニック系の割合は9%超だった。

<選挙陣営が攻撃の応酬>

マーシャル陣営は、ハミルトン氏の教会に関連するキャンプで、ボランティアが10代の少年2人への性的虐待で告発された事件を取り上げ、同氏を批判している。教会指導者らは当初、この事件を内部調査にとどめたが、その後、このボランティアがキャンプに戻り、再び不適切な行為をしたと訴えられたことを受けて警察に通報した。

ハミルトン氏は、教会が当初から警察に通報すべきだったと認めた上で、この事件を受けて警察への通報を義務付ける方針へ変更したと述べた。

これに対しハミルトン陣営は9月のニューヨーク・タイムズ紙の報道を取り上げ、政界入り前に産科医だったマーシャル氏が未払いの医療費を巡り700人超の患者を提訴していたことを強調した。マーシャル氏は、一般的な債権回収の手法に従っただけだと説明している。

マーシャル陣営は取材要請には応じなかったが声明を発表し、これまで農家支援のほか、中間層の減税、国境の安全確保で実績を上げたと主張した。またハミルトン氏を、ニューヨーク州選出の上院少数党院内総務チャック・シューマー氏が資金提供する民主党候補だと批判し、全国レベルの民主党との結び付きを強調した。

10月9日、ガーデンシティの小さなカフェでは、引退した小児科医で共和党員として登録するマイケル・シャル氏らの有権者グループが、ハミルトン氏の訪問を待ち受けていた。シャル氏は、穏健な政治姿勢と、「人々と対話しようという意思がある」点から、ハミルトン氏を支持していると語る。

イベント後にロイターの取材に応じたハミルトン氏は、共和党の強固な地盤であるカンザス州で、シャル氏のような有権者が示すメッセージに焦点を当てている。

「単にカンザス州が激戦州となり、われわれが1議席を奪えるかもしれないというだけの話ではない。共和党の牙城であるカンザス州の人々が、首都ワシントンで起きていることは容認できないと訴えていること自体が重要だ」

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