Tamiyuki Kihara
[東京 20日 ロイター] - 高市早苗首相の就任から21日で1年になる。「世界の真ん中で咲き誇る日本外交」を掲げる一方、経済・地政学の両面で関わりの深い中国との関係は厳しい冷え込みが続く。一時は関係改善に意欲的だった政府関係者らは、ロイターの取材に「高市政権のうちは難しい」と口をそろえた。
<選挙勝利に懸けた期待>
「強い政権ができれば中国は対話を求めてくるはずだ」。日本の外務省関係者がこう自信をのぞかせて話したのは今年1月、高市氏が電撃的な衆院解散を決めた直後だった。選挙に勝利して長期政権の足掛かりをつかめば、中国としても高市政権と向き合わざるを得なくなる。ハイレベルの対話が生まれ、関係は改善に向かう。こう考えたのだ。
その約2カ月半前の昨年11月、高市氏が国会で台湾有事も日本の存立危機事態になり得ると述べ、両国関係は一気に冷え込んだ。中国は今年1月、軍民両用(デュアルユース)品の対日輸出規制強化を発表。レアアース(希土類)が対象に含まれるとの見方が広がり、政府内からは「中国は本気で日本国内の分断を図っている」との声が上がった。輸出規制で被害を受ける企業や物価高で苦しむ国民が高市氏から離れれば、いくら人気のある政権でも持ちこたえられないかもしれない。そんな意図と受け止めた。
実際、前出の関係者は高市氏の台湾有事発言以降、中国との対話の糸口をつかめずにいた。だからこそ、選挙で高市氏が勝利を収めれば「中国は分断戦略の見直しを余儀なくされる。両国のムードが変わるはずだ」と期待してもいた。
2月8日投開票の衆院選で、自民党は316議席を獲得する圧勝。単独で衆院の3分の2を超えた。
<誤算となった「勝ち過ぎ」>
しかし、日中のムードは変わらなかった。公式なハイレベル対話は実現せず、日本外務省がホームページで公開する中国との「要人往来・会談」の欄は、国際会議に合わせ訪中した政務三役の活動報告などの記載にとどまる。
なぜ選挙で勝っても中国との関係改善が進まないのか。複数の日本政府関係者によると、日本政府は選挙後、中国側との対話を引き続き模索しているものの、一時期に比べればその熱量は決して高くないという。
前出の外務省関係者はその要因に、「選挙で勝ち過ぎたこと」を挙げた。台湾有事発言を撤回しない高市氏の「対中強硬路線」が、選挙での勝利によって信認を得てしまったという見方だ。これまでは、日中関係が悪化すれば経済に影響が及ぶため、関係はマネージしなければならないというのが日本政府内の共通認識だった。それが高市政権で崩れかけているとし、同関係者は「日中関係を壊したままでいいという世論が大勢となったとき、日本は将来どうなってしまうのか想像もつかない」とも語った。
<焦点は11月のAPEC>
11月には中国・深圳でアジア太平洋経済協力会議(APEC)が開かれる。昨年の同会議では、高市氏と中国の習近平国家主席との会談が実現した。政府内では高市氏の台湾有事発言後、「次のAPECに向けて対中戦略を練る」との声も出ていた。
9月にワシントンで開かれた米中首脳会談では、トランプ米大統領が習氏に、日本と対話するよう促したことが分かっている。ただ、現時点で日中首脳会談の見通しは立っていない。政府内で頼みの綱とみられてきた米国による働きかけが空振りに終われば、日中関係改善への期待はついえる恐れがある。
トランプ氏は10月19日、APECに合わせた米中ロ首脳による3者会談開催について、記者団に「核兵器と非核化について話し合うために会談が行われる可能性がある」とし、「習主席が開催を望むなら応じる。貿易など他の問題についても話し合うことになるだろう」と語った。
<高市外交左右する対中戦略>
こうした現状について、キヤノングローバル戦略研究所(CIGS)上席研究員兼中国研究センター長の峯村健司氏は、「高市首相は中国に対して『対話の扉は開いている』と言うが、扉を開けるだけでは政策とは言えない」と苦言を呈する。中国に安易に歩み寄るべきだとは思わないとし、台湾有事発言の撤回も必要ないとする一方、「しっかりとした日本の対中戦略が求められる」と指摘。中国経済が悪化したことで、中国では日本企業の重要性や価値が再認識されているとし、半導体関連技術など日本の強みを駆使した戦略を描くべきだと述べた。
中国は米中首脳会談後の9月下旬、民間団体の会長として訪中した岩屋毅前外相を受け入れ、王毅外相や何立峰副首相らが会談に応じた。政権の外交に精通する政府関係者は、「高市氏とは話さないが、『良識のある』政権が誕生すればいつでも対話に応じるというのが、いまの中国のスタンスだ」と分析。峯村氏も「高市氏とその他の勢力を分け、その他を中国に取り込むことで高市氏を孤立させる戦略だ」と解説した。
高市外交2年目の成否を左右するポイントとして、峯村氏は「日本政府としてしっかりとした対中戦略を描けるのかどうか」を挙げた。一方、ロイターの取材に答えた政府関係者3人はいずれも悲観的で、こう口をそろえた。「高市政権下での日中の関係改善は難しいだろう」
政権の対中戦略について、木原稔官房長官は20日の記者会見で、中国は重要な隣国だとの認識を改めて示した上で、「戦略的互恵関係を包括的に推進する」との従来からの姿勢を強調。懸案があるからこそ意思疎通が重要になるとし、「国益を守るための対話を進め、建設的かつ安定的な関係を構築していく」と述べた。
(鬼原民幸 編集:橋本浩)
*インタビュー詳細:日本は対中戦略描け 「日本企業の価値」にヒント=CIGS峯村氏