「外国人がいないと回らない」ものづくりの現場
ところで愛知県には、製造業という強い基盤がある。その原動力となっているのは、トヨタ自動車をはじめとする有力企業だ。しかし、見落としてはならないのが外国人労働者の存在である。
官民連携による施設整備も興味深いが、それ以上に関心を引かれたのは、製造業の人手不足に対応する取り組みだった。
外国人労働者が増えている背景には、深刻な人手不足がある。
自他ともに認めるものづくり県である愛知においても、少子化の影響で若年労働力が減少している。そうでなくとも製造現場には「3K」のイメージが強いこともあり、とくに中小の製造業者は人材の確保に苦慮しているようだ。
名古屋市内のテント製造業、丸八テント商会の佐藤均社長も「まともに募集をかけても日本人はほとんど来ない」とあきらめ顔だ。となれば、外国人に活路を求める他にない。事実、丸八テント商会では技能実習生と社員併せて10人の外国人が働いている。同社の競争力の根幹である縫製と溶接も責任者は外国人だ。(207ページより)
テント倉庫や日よけシェード、間仕切りなどテント膜を用いた構造物を作っている丸八テント商会は、1951(昭和26)年創業の老舗。小規模ではあるものの、企画、設計、製造、施工までを一貫して手がけ、その企画力や技術力は高く評価されており、先の大阪・関西万博では、ハンガリー館のファサードの製作・施工も手がけた。
ファブリックを使った外装や内装の企画提案は、一般的な工事とは異なる創造性が求められる仕事にも見える。しかし、丸八テント商会の事業を根底で支えているのは、素材を裁断・加工する縫製と、骨組みを作る溶接の技術だ。
つまり、製造業者としての基本となる技術を大切にしているのだ。優秀な企画やデザインも重要だが、縫製と溶接を担う人材が不足すれば、事業の成長は望めない。
もっとも、今どき縫製や溶接を目指すような若者は少なく、いたとしてももっと大きな企業に行ってしまう。そこで、20年ほど前から日本人インターンを採用する傍ら、技能実習生やインターンなど外国人の採用を意識的に進めてきた。その結果、今では25人の従業員のうち外国人が10人を占めるようになった。4人が実習生、6人が社員である。(208ページより)
佐藤社長の「外国人がいないと回らない」という言葉は、中小の製造業者が直面する厳しい現実を物語っている。外国人の採用を積極的に進め、将来の主力として育てていかなければ事業に支障をきたすことになる。
先述のとおり、愛知にはトヨタグループや三菱重工業など、日本を代表する製造業の大企業が集まっている。しかし、それらを支えているのは中小企業だ。もし、そういった縁の下の力持ちが崩壊してしまうと、ものづくり県としての競争力も大きく落ちてしまう。その影響は愛知県だけにとどまらず、日本の産業競争力にも及びかねない。