Howard Schneider

[ワシントン 5日 ロイター] - 米国では、トランプ大統領と与党共和党が「失業率4.2%」という数字を抱えて11月3日の中間選挙を迎えようとしている。歴史的に見れば低水準で、多くのエコノミストが「完全雇用」と見なす水準でもある。つまり米国の雇用市場が堅調であることを示す数字だ。

ところが、多くの米国有権者の受け止め方はそうではない。世論調査では、トランプ氏と共和党による経済運営への評価は低迷している。その背景には、現在の雇用市場が新型コロナウイルスのパンデミック後に見られた好況期とは大きく異なっていることがある。当時の労働者には、より高い賃金を求めて転職するだけの交渉力があったが、そうした状況は既に終了した。物価上昇が賃金の伸びを相殺する一方、移民規制の強化や国外退去措置によって、経済成長の土台となる労働力人口も伸び悩んでいる。雇用自体は増え続けているものの、増加ペースは大幅に鈍化した。

米労働省が2日発表した9月雇用統計は、中間選挙を前に公表される最後の雇用情勢の「通信簿」で、この最新統計から米国の雇用市場が現在どのような状況にあるのかを見ていく。

◎低い失業率

低失業率は、米国経済の底堅さを支えてきた大きな要因だ。パンデミック時に失業率が急上昇し、その後急速に回復した特殊な時期を除けば、米国の失業率は2017年ごろから4.5%以下で推移してきた。この水準は、少なくとも完全雇用に近い状態と考えられる。その意味では、現在の雇用環境は第2次世界大戦後の復興が進んだ1950年代や、労働需給が逼迫していた1960年代にも匹敵する。インフレ率が高止まりしているにもかかわらず家計消費が底堅さを保っている理由の一つも、極めて単純で、人々に仕事があるからだ。

◎労働力人口の課題

1960年代初め以降、米国では移民の流入、人口増加、そして女性の労働市場への参加を背景に、働く意思を持つ人の数が数十年にわたって安定的に増え続けた。これは米国の経済成長を支える重要な柱となってきた。しかし、この長期的な拡大傾向は2007-09年の金融危機と景気後退によって途切れた。この時期には、失業した移民の一部が母国へ戻り、仕事探しそのものを諦める人も出た。

現在、米国の労働力人口には別の圧力がかかっている。人口の高齢化や出生率の低下に加え、トランプ政権による移民取り締まり強化の影響だ。ここ数カ月で労働力人口は増加しているが、就業中または仕事を探している人の総数は25年11月に記録した過去最高の1億7150万人には依然として届いていない。

◎解雇少ないが採用も低調

パンデミック後、企業は歴史的な勢いで人材を採用した。同時に、自発的な離職率も高まり、多くの労働者がより高い賃金を求めて次々と職場を移っていった。だがそうした活発な動きは既に姿を消している。企業は大規模な人員削減には慎重で、労働者側も現在の職場にとどまる傾向が強まっている。新規失業保険申請件数は低水準を維持する一方、企業による新規採用も低調だ。

こうした環境の変化は、コンファレンスボード(全米産業審議会)が先月公表した調査結果にも表れている。仕事は「豊富にある」と答えた人の割合が低下する一方で「仕事を見つけるのは難しい」と答えた人の割合は、トランプ氏の大統領1期目の最後の月だった21年1月以来の高水準となった。同じ調査による消費者信頼感指数も、12年ぶりの低水準に落ち込んだ。

◎製造業雇用の成果まちまち

トランプ氏は24年の大統領選挙で、高率関税と規制緩和を活用して製造業の雇用を拡大する方針を掲げた。製造拠点の海外移転によって大きな打撃を受けた地域で、中間層が再び経済的な機会を得られるようにすることが狙いだった。

しかし米国では、生産性の向上という好ましい要因もあって、製造業の雇用者数は半世紀近くにわたって減少傾向にある。製造業の雇用者数は1979年半ばに約1950万人でピークを迎え、当時は非農業部門の雇用全体の5分の1以上を占めていた。足元では多少持ち直しているとはいえ、現在の製造業雇用は1260万人にとどまる。トランプ氏が25年1月にバイデン前大統領から政権を引き継いだ時点と比べても、なお約2万1000人少ない。

さらにバイデン政権の中盤に記録した直近のピークである1290万人との差は一段と大きい。

トランプ政権による積極的な関税政策は経済に大きな混乱をもたらした可能性があるが、これまでのところ米国の雇用構造そのものを大きく変えるには至っていない。人材需要は依然として高齢化する米国社会のニーズに沿った分野へ傾いている。これは、約33兆ドル規模に達する開放された経済の米国で、政府が政策によって雇用の行方を思い通りに変えることがいかに難しいかを物語っている。

◎インフレが打ち消す賃金上昇の恩恵

働く世帯にとって結局のところ重要なのは「仕事はあるものの、暮らしが豊かになっているという実感は得にくい」という点だ。

税引き後に実際に手元に残り、消費や貯蓄に回すことのできる可処分所得を物価変動の影響を除いてみると、最近の前年比伸び率は小幅で、2%を下回る状況が続いている。失業率が低くても、同時に賃金の伸びも比較的鈍い。背景には、自動化の進展や設備投資の増加、企業利益の好調さなどが影響している可能性がある。

過去には、実質可処分所得が年間3%程度伸びることがより一般的だった。

Reuters Copyright (C) 2026 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。