Yusuke Ogawa

[東京 30日 ロイター] - 首都圏のスーパーで、「デフレ時代」を思わせる価格競争が激しさを増している。物価高で消費者の節約志向が強まる一方、ロピアやオーケーなど安さを武器に急成長するディスカウント勢が出店を加速。既存の大手も1円単位の価格競争に引き込まれている。

その象徴が、首都圏を地盤とする老舗のイトーヨーカ堂だ。かつて総合スーパー大手として全国に店舗網を広げたが、衣料品や日用雑貨の専門店との競争などで業績が低迷。昨年9月に親元のセブン&アイ・ホールディングスを離れ、米投資ファンドのベインキャピタル傘下に入った。再出発したヨーカ堂が巻き返しの柱の一つに据えるのが低価格戦略だ。

低価格プライベートブランド(PB)の開発を強化し、2028年度には同ブランドの売上高を25年度比で約3倍に引き上げる。「消費者から『高い』というイメージを持たれ、価格に敏感な若いファミリー層を取りこぼしてきた」。ヨーカ堂を運営するヨーク・ホールディングスの石橋誠一郎社長は反省を口にする。

イメージ脱却に向けた目玉商品が、9月に発売した低価格PB「セブン・ザ・プライス」のラガービールだ。ヨーカ堂がPBビールを開発するのは今回が初めて。ベトナムの工場に生産を委託してコストを抑え、ナショナルブランド(NB)商品より約2割安い1本173円(330ミリリットル)で販売する。10月の酒税改正後には162円に設定し、特売時には6本入りパックで1本当たり約146円まで引き下げる予定だという。

ヨーカ堂だけではない。ライバルの業界最大手イオンは、昨年の類似商品と比べて価格を約3分の1に抑えた税別1000円のフリースを投入する。前回の発売は2001年で、当時ブームを起こしていた「ユニクロ」に対抗して企画した。今月には格安ジーンズ(税別1000円)を約17年ぶりに発売。広報担当者は「非常に反響が大きく、早くもほぼ完売の状態になっている」と話す。

<インフレ下で安売り回帰>

日本経済がインフレ局面に入ったにもかかわらず、なぜスーパーの現場では「デフレ時代」のような安売り競争が復活しているのか。背景にあるのは、賃金も伸びるが物価も上昇し、消費者の生活防衛意識が強まっていることだ。

総務省の家計調査によると、7月の2人以上世帯の消費支出は30万1245円で、物価変動の影響を除いた実質では前年同月比3.6%減った。減少は8カ月連続。食料も実質1.3%減と2カ月連続で前年を下回った。

日本チェーンストア協会がまとめた8月の全国スーパー売上高は、既存店ベースで前年同月比0.2%増にとどまった。客数は前年割れで、食品値上げによる客単価の上昇がかろうじて販売額を押し上げている。富裕層やインバウンド(訪日客)の旺盛な消費に支えられ、好調を維持する百貨店とは対照的だ。

値上げ圧力もなお強い。帝国データバンクによると、円安やイラン紛争の影響で9月の飲食料品値上げは4923品目に達し、単月としては23年4月以来の高水準となった。10月も約3100品目の値上げが予定されており、26年の対象商品は現時点までの判明分だけで2万品目を超える。

今秋には電気・ガス代の上昇も見込まれ、実質賃金が再びマイナスに転じる可能性もある。みずほ総合研究所の池田亮平氏は「インフレの再燃により家計の節約志向・買い控え行動が一段と強まりかねない」と指摘する。

モノの値段が上がり続ける一方、売り場では安値を競う。この「インフレ下の安売り競争」への危機感は、低価格PB「ベストプライス」を大量に展開するイオンよりヨーカ堂のほうが強い。

ヨークHDの高倉和也シニアオフィサーは「食料品は真っ先に節約の対象になりやすい。だが当社は低価格PBの品ぞろえが少なく、売り場で十分に面展開ができない」と打ち明ける。

セブン&アイのPBはコンビニ向けの「セブンプレミアム」が主力で、セブン・ザ・プライスは約300品目にとどまる。今後はマヨネーズなどの加工食品を中心に開発を加速し、「年間で億円単位の売上を作れるような『戦える商品』をそろえたい」(高倉氏)という。

<新勢力「LOT」が台頭>

業界を価格競争へと駆り立てるもう一つの要因が、首都圏で存在感を増す「LOT」だ。ディスカウントスーパーの「ロピア」「オーケー」「トライアル」の頭文字を組み合わせた造語で、いずれも無駄を徹底的に省くローコスト経営で低価格を実現し、価格に敏感な消費者の支持を集めている。

とりわけ福岡県に本社を置くトライアルホールディングスは、大手スーパーの西友を昨年買収し、攻勢を強めている。人口が増加する都内での需要開拓に向け、コンビニサイズの小型スーパー「TRIAL GO」の出店も始めた。

ドン・キホーテを展開するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)は今年7月、首都圏地盤のスーパー、Olympicグループを買収。食品を強化した新業態「ロビン・フッド」への転換に乗り出した。今後は「ドンキや傘下のスーパー、ユニーの調達網を活用して、安さを一段と訴求していく方針」(PPIH)という。

さらに、ローソンが5月に東京都内で、コンビニより割安な商品をそろえた小型スーパーの1号店を開業するなど、業態の垣根を越えた価格競争も激しくなっている。

<薄利競争、再編圧力に>

ただ人件費や物流費の上昇が業績の重荷になる中で、低価格競争を勝ち抜くのは容易ではない。収益悪化懸念などから、イオンの株価は年初と比べて約半分の水準にまで落ち込んでいる。スーパー各社はIT技術を活用して店舗運営の効率化に取り組んでいるが、為替の円安基調も相まって食品高騰が続けば、「規模の利」を求めて業界の合従連衡がさらに進む可能性がある。

ヨークHDの石橋社長は「国内のスーパー業界は大手10社を合計しても2割程度のシェアしかない」と指摘。採算を確保するために「最終的には、大手のシェアが過半に達する水準」にまで集約を進める必要があるとの考えを示した。

(小川悠介 編集:久保信博)

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