John Davison Emily Giles
[ロンドン 29日 ロイター] - イラン指導部が米国との戦争で強気の姿勢を示す一方で、市民生活は一段と厳しさを増している。米国の海上封鎖措置により国家財政の生命線である石油輸出が断たれ、生活必需品や家賃さえ賄えない人が出ているためだ。
高額な家賃のためにテヘランを離れざるを得なかった技術者から、たばこ代の高騰で禁煙を余儀なくされた女性、薬を買うのに苦労する介護者まで、日常生活のあらゆる場面に影響が及んでいる。
テヘランでカメラ取材に応じたレストラン経営者のベフナム・リアジさんは「ごくわずかな利益で品物を売らざるを得ない。店を畳めば失業してしまうからだ」と語った。
リアジさんは値上げに踏み切ることができないと言う。顧客に支払い余力がなく、多くは生活必需品しか買わなくなっているためだ。
経済的圧力がどこまでイランを外交上の妥協へ押しやるかは不透明だ。イランはホルムズ海峡を通じた湾岸地域のエネルギー輸出に対する締め付けを強めており、米国など世界各地で石油・ガス価格を押し上げている。
<経済苦、外交を後押しか>
しかし、米国、中東、イランの関係筋が先週明らかにしたところによると、最近の外交の活発化は、経済的苦境が一因になっているという。イラン当局者は騒乱への懸念を繰り返し表明しており、反体制的な動きの兆候を容赦なく取り締まってきた。
米国とイスラエルが対イラン戦争を始める1カ月余り前の1月には、長年の経済苦に抗議したデモの参加者、数千人を当局が殺害したとされる。
しかし今では、ロイターが取材した人々は皆、抗議活動について考える余裕もないほど日々の心配事に追われていると語った。
イラン北部に住む60代の主婦ヘディエさんは、夫の公務員年金で暮らしている。彼女はアルツハイマー病を患う高齢の母親に必要な医薬品や大人用のおむつさえ、十分に購入できないという。
彼女は、この秋に初登校を迎える孫のために新しいかばんを買おうとしたが、価格は予想の5ー6倍に上り、結局買えたのはノートと鉛筆だけだった。
ロイターが電話やメッセージングアプリで取材した大半のイラン人同様、ヘディエさんは外国メディアへの発言で処罰されることを恐れ、匿名を希望した。
イニシャルのみでの取材に応じた教員のA・Jさんも、母親が必要とする薬を常に購入できるわけではないと語った。
彼は戦争のために学校がオンライン授業へ移行したことを受けてテヘランを離れ、北部の村にある母親や兄弟の家へすでに身を寄せているが、対面授業が再開されたとしても、戻るための費用を賄えなくなるのではないかと懸念している。
クルディスタン州の州都サナンダジに住む心理療法士ナザニンさん(34)は、以前は禁煙することができなかったが、たばこ代の高騰のため喫煙をやめたと語った。
割高でも闇市場を利用して通常の入手経路を迂回できる人々の間では、費用の上昇にもかかわらず、 闇市場の利用が一段と広がっているという。
ある男性は、手術に必要な煩雑な手続きを避けるため、外科医に外貨で200ドル(約3万1400円)を支払ったと語った。
別の男性は、警察から賄賂を求められることが増えていると話す。身分証明書を持たずに検問所で止められた際、以前よりも多くの金額を支払わざるを得なかったという。
<民間部門で雇用削減広がる>
イニシャルのみを明かした建築家のA・Aさんによると、比較的裕福な層も節約を余儀なくされているという。「誰もが、以前の生活水準に比べれば貧しくなった」
Aさんの車は先週パンクしたが、安価な交換用タイヤの入手には2週間かかるため、その間はスペアタイヤで走行せざるを得ない。すぐに入手できるタイヤはもはや購入する余裕がないという。
Aさんは、イランに燃料不足が迫り、供給網(サプライチェーン)の混乱を通じてさらに広範な経済的打撃につながることを懸念している。
すでに戦争は、民間部門全体で深刻な雇用減少を招いている。
テヘラン在住の女性で、同じくイニシャルのみでの取材を希望したM・Hさんは、地元の企業の調達部門で今月解雇されたと語った。1年契約が更新された翌日のことだった。
現在、彼女は会社が翌年分としてイランの社会保障制度に納めた金を返還しなければならないという。家族は支出に厳格な優先順位を付けており、食費を最優先にしている。
「幸い、まだインターネット代は払えるので、オンラインでつながりを保ったり、映画を見たりできる」と彼女は語った。
元エンジニアで現在は学生への個別指導で生計を立てているビジャンさん(40)は、妻と共にテヘランのアパートを出て、首都郊外の「スラム同然」と彼が表現する地域へ引っ越したと語った。
夫婦は貯金を全て使い果たしており、生活費の安い別の都市への移住を計画している。
商店主らは日々、生活水準の低下を肌で感じている。食料品店を営むラミン・ユセフニアさんは、来店客のほぼ全員が買い物の量を減らしていると話す。「以前なら5個、10個と買っていたものが、今では2個しか買えない。貯金どころの話ではない。これが現実だ」