Sophie Kiderlin Dhara Ranasinghe
[ロンドン 29日 ロイター] - 足元のユーロ/ドル は年初来安値近くで推移している。今後の行方を大きく左右するのは、世界的なエネルギーショックと、欧州で高まる政治リスクだ。
8月に1.20ドルに迫る勢いだったユーロは今月に入って約2%下落し、2カ月ぶりの安値となる1.14ドルをわずかに割り込んだ。ドルは、米連邦準備理事会(FRB)の利上げによってインフレ抑制に取り組む姿勢への信頼が回復したことが追い風となっている。一方、ユーロを巡っては政治情勢の不透明感に加え、原油価格が再び上昇していることが先行きに影を落とす。これまで予想以上に底堅さを保ってきた欧州経済にも打撃を与えかねないためだ。
ラボバンクのシニア為替ストラテジスト、ジェーン・フォーリー氏は「欧州の成長の底堅さはいつまで続くのか。本当に冬を乗り切れるのか。そして春になれば、政治情勢がかなり混乱する可能性もある」と指摘した。
ドイツでは最近の州議会選挙で極右勢力が躍進してメルツ首相が打撃を受けており、選挙結果を受けてメルツ氏は公約に掲げた改革路線の修正を迫られる可能性がある。フランス市場も、高水準の債務や政治の膠着に対する懸念から圧力を受けている上に、2027年には大統領選挙も控えている。
フォーリー氏は「こうした環境においてユーロに関して少し心配している」と述べ、3カ月後のユーロ/ドルを1.16ドルとする自身の予想について、現在見直しを検討していることを明らかにした。
投資家が格付け「AAA」のドイツ国債ではなくフランスの10年国債を保有する際に求める上乗せ幅、いわゆる利回りスプレッド は110ベーシスポイント(bp)を超える水準まで急拡大しており、ユーロにとって警戒すべきシグナルとなっている。
バンク・オブ・アメリカの為替ストラテジストによると、このスプレッドがさらに10bp拡大するごとに、ユーロ/ドルは0.4%下落する関係にあると推計される。直近のユーロ/ドルは1.137ドル前後だ。
オプション市場でも、ユーロに対する投資家の見方は弱気に傾きつつある。ユーロの3カ月物リスクリバーサルは先週、イランでの戦争が始まって以降の週間ベースで最大の低下幅を記録した。リスクリバーサルは、ユーロを買う権利を持つオプションと、売る権利を持つオプションの価格差を示す指標で、低下すればユーロ安に備えるプット(売る権利)が相対的に割高になっていることを意味する。
<欧州ガス価格低下がユーロ反発に不可欠>
もっとも、アナリストや投資家の間では、ユーロの上昇を見込む強気派が完全に希望を失う必要はないとの見方もある。市場では年内にユーロ圏で少なくともあと1回の利上げが実施されるとの観測が織り込まれているほか、域内経済もなお底堅さを示しているためだ。ただ、エネルギー価格の高止まりによって、少なくとも目先のユーロの見通しが不透明になっているとの認識についての異論は乏しい。
ユーロは昨年、対ドルで約13%上昇した。しかし今年は、イランでの戦争がユーロ相場の重荷となっている。
戦争の影響でホルムズ海峡を経由する液化天然ガス(LNG)の輸送が滞り、欧州のガス価格は今月、1メガワット時当たり80ユーロを超え、2022年末以来の高値に達した。アナリストらによると、ユーロが再び上昇基調に戻るためには欧州のガス価格が下落する必要があるが、近い将来にそうした状況が訪れる公算は小さい。
RBCブルーベイ・アセット・マネジメントのシニアポートフォリオマネジャー、カスパー・ヘンセ氏は「商品価格の見通しを見ると、大半の予測機関が欧州のガス価格を85-100ユーロのレンジで見込んでいる。実際にそうなれば、ユーロはあっさりと1.12ドルまで下落する可能性がある」と述べた。
米国がディーゼル燃料の輸出を禁止する可能性が取り沙汰されていることも、ユーロにとって新たな逆風となり得るが、アナリストらは現時点でこれを基本シナリオとはみていない。
INGの為替ストラテジスト、フランチェスコ・ペソレ氏は、原油価格が1バレル=115ドル近辺まで上昇すれば、経済成長への懸念が一段と強まるため、ユーロへの下押し圧力が高まるとの見方を示した。
一方でペソレ氏は、主要中央銀行がエネルギー高によるインフレ圧力を警戒し、金融引き締めに積極的な姿勢を維持するのであれば、ユーロが急激に下落することはないだろうとの見方も示した。INGは今のところ、年末のユーロ・ドル相場を1ユーロ=1.16ドルとする予想は維持している。