Maayan Lubell
[エルサレム 29日 ロイター] - イスラエルのネタニヤフ首相(76)は10月の総選挙を控え、敵対勢力に囲まれた地域で国民の安全を守れるのは自分だけだと訴えている。長年用いてきた選挙戦術だ。
しかし、2023年10月のイスラム組織ハマスによる大規模攻撃で安全保障上の失態が露呈し、信頼回復に苦戦している。
ネタニヤフ氏が率いる右派政党リクードは「ネタニヤフは屈しない」との公式スローガンを掲げているが、多くの世論調査によるとリクードは議席の約3分の1を失う見通しだ。
演説や選挙活動の短編動画で、ネタニヤフ氏は政敵を、イスラエルの敵と戦う決意も、外国からの批判に立ち向かう気骨も欠いた弱腰な左派だと非難している。
空軍基地で29日に撮影された動画で、ネタニヤフ氏はイスラエルの敵が総選挙前に攻撃を計画している兆候があるとして、「われわれに手を出すな。今も、これからもだ」と語り、「われわれの長い腕はお前たちに届く」と警告した。
一方、ネタニヤフ氏はこの数週間、中東のパートナー国からハマスによる攻撃の可能性を事前に警告されていたとの報道を否定する対応に追われた。政敵らはこの疑惑を攻撃材料にしてきた。
超党派のシンクタンク、イスラエル民主主義研究所(IDI)のヨハナン・プレスナー所長は「これは前例のない事態だ。ネタニヤフ氏はこれまでも総選挙に出馬してきたものの、これほど劇的な安全保障上の失敗を招いた後に立候補したことは一度もない」とし、「選挙は多くの点で現職首相に対する信任投票であり、失敗に対するネタニヤフ氏の責任、政府の責任、そしてイスラエルの対応のあり方が問われる」と訴えた。
<ネタニヤフ氏、国際社会に対抗姿勢>
ハマスの攻撃は複数の戦線にまたがる戦闘を引き起こし、イスラエル軍はハマスや、その同盟勢力であるヒズボラ、イランに対して一定の成果を上げたものの、戦略的な成果はほとんど得られなかった。ネタニヤフ氏は、この紛争が地域を変革し、今後も変革し続けると主張している。
しかし、イスラエルのガザでの軍事作戦では数万人のパレスチナ人が死亡し、同地区の大部分が廃墟と化した。こうした状況は外交的な孤立をさらに深める結果となった。
最も重要な同盟国である米国でも、イスラエルへの支持は低下している。
ネタニヤフ氏が前回選挙戦を繰り広げた19年には、選挙用看板に同氏とトランプ米大統領が握手する姿が使われた。今回のリクードの選挙戦の動画からはトランプ氏の姿が消えている。
とはいえ、1996年に初めて首相に選ばれたネタニヤフ氏は、その後、間を置きながらもイスラエルの首相として通算在任期間が最長となっている。
ネタニヤフ氏に近い情報筋によると、ネタニヤフ氏はあらゆる選挙で負けるかもしれないという背水の陣で臨んでおり、それが不利な状況でもしばしば勝利を収めてきた一因になっている。
選挙活動に詳しい別の情報筋は、世論調査の結果にもかかわらずネタニヤフ氏の陣営は結束を保っており、動揺や混乱の兆候は見られないと指摘する。
ネタニヤフ氏は24日の国連演説でイスラエルの行動を強く擁護し、批判国を非難した。この演説は通信アプリ「テレグラム」の同氏のアカウントでも大きく取り上げられ、演説前には6本の予告動画を投稿した。
うち1本では「世界に向けて皆様を代表できることを誇りに思う。今まさに(演壇に)上がり、国連に対してイスラエルのために戦うところだ」と訴え、さらに演説内容の抜粋を5本公開した。
演説全文へのリンクには、ヘブライ語で「ネタニヤフが世界に立ち向かう」という説明文が付けられていた。
<最終局面は膠着状態か>
ネタニヤフ氏の選挙活動でのもう一つの常とう手段は、政敵が勝利すれば、パレスチナ人に融和的で安全保障を損なうアラブ系政党と連立政権を組むことになるとして、有権者の不安をあおる手法だ。
ネタニヤフ氏の主な対抗馬は、中道政党ヤシャル(「まっすぐ」の意味)のアイゼンコット党首だ。元軍トップのアイゼンコット氏はガザでの戦闘で息子を亡くした。
リクードは26日以降、人工知能(AI)で生成したものを含め、アイゼンコット氏がアラブ系政党の指導者らと並ぶ画像を少なくとも4回投稿している。
ネタニヤフ氏は9月18日の選挙動画で「『まっすぐ』など存在しない。ヤシャルははったりだ。左か右かのどちらかだ。それが今回の選挙の本質だ。パレスチナ国家を望むのか。それとも、ユダヤ国家を望むのか」と訴えた。
しかし、シャローム・ハートマン研究所の政治アナリスト、アモツ・アサエル氏は、アイゼンコット氏の安全保障分野での経歴や、ヤシャルの候補者らの顔ぶれを考慮すると、ネタニヤフ氏がアイゼンコット氏に対して使い慣れた戦術を用いるのは成功の見込みが薄いかもしれないと指摘する。
世論調査はしばしば不正確だが、ネタニヤフ氏は、総選挙後に過半数の議席を確保し、政権を維持する可能性は低いと認識しているとされる。
アサエル氏は「ネタニヤフ氏の戦略は、代わりとなる政権の樹立を阻止するのに十分な票を獲得し、何らかの膠着(こうちゃく)状態を作り出し、次の選挙に向けて暫定首相の座にとどまることにあるようだ」との見方を示した。