※"A picture is worth a thousand words."――1枚の写真には千の言葉の価値がある。世界の今を鋭く捉えるドキュメンタリーから、感性を刺激する芸術的なアプローチまで。連載「Picture Power "世界を物語る"写真の力」からお届けます。 

AIは世界をどのように認識し、解釈するのか。

旧石器時代、スペインのアルタミラ洞窟では岩の膨らみやくぼみを生かして、バイソンの壁画が描かれた(下)。紀元前には人々は夜空に輝く星々をつなぎ、神々や動物の姿を重ね合わせ、星座を生んだ。

人間は太古から、そこに存在しないものを「見立て」る欲望を持ってきた。混沌の中にパターンや特徴を見いだし、点と点をつないで意味を紡ぎ出す人間の脳。その神経回路を模して作られたAIもまた、人間と同じように、バイアスや錯覚から逃れられない。

アルタミラ洞窟の壁画の写真
アルタミラ洞窟の壁画の写真 Bisonte Magdaleniense polícromo, by Museo de Altamira y D. Rodríguez (CC BY-SA 3.0)

アーティストであり写真家の苅部太郎は、古来から受け継がれてきた人間特有の「見立て」という認知機能と、現代のAIによる画像認識を結び付ける。まず、テレビ受像機に意図的な接触不良を起こし、ニュース映像などに生じたグリッチ(画面の乱れ)を撮影する。その画像を回転やトリミングして、本来の文脈から切り離した上で、風景認識・生成AIシステムに入力する。するとAIは、意味を失った断片的な情報に学習済みの風景の記憶を無理に当てはめ、強引に風景を紡ぎ出す。

こうしたAIの「見立て」によって、線遠近法を無視したあり得ない光景が生まれる。それらは人類が蓄積してきた膨大な集合的イメージをAIが独自に解釈し、あるいは誤読して再構成した結果である。

ここで紹介する『あの海に見える岩を、弓で射よ』シリーズは、東京・恵比寿の東京都写真美術館で、9月30日から来年1月17日まで開催される展覧会『ふたたびくみたてる 日本の新進作家vol.23』に出品される。

本作で苅部は、画像生成AIを「形而上のカメラ」として扱い、オンライン空間に広がる現実を「撮影」している。レンズを通して光を集め、フィルムやイメージセンサーに像を結ぶ光学カメラでは、決して捉えることのできない仮想世界。そこで複雑に絡み合う光学技術、アルゴリズム、人間の認知、社会制度の循環を可視化し、時代の記録として蓄積していく。

あの海に見える岩を、弓で射よ
【作家による解説】風景写真の入力が前提のソフトウエアに、そうではないブロックノイズだらけのテレビ画面画像を入れると、システム にバグが生じる。AIは無理やりパターン認識をして意味を補完し、秩序だった風景をでっち上げる。人の脳もマシン のニューラルネットワークも、複雑なものを前にすると、自分の見たいもの、知っているものに引き寄せて「見立て」て しまう。AIをシミュレーターとして、現代の見る営為そのものをモデル化して、切り取った。

このアプローチは、苅部がこれまで報道写真家として、社会が見過ごしてきた「見えない現実」を浮かび上がらせてきた活動の延長線上にある。

苅部は、この手法を「コグニトグラフィー(認知を描く)」と名付けた。光を記録する「フォトグラフィー」に対して、「認知の仕組み(コグニション)」そのものを可視化する、新しい写真表現だ。

かつて人々が星をつなぐことで星座を生み出したように、AIの無数の解釈の連なりもまた、新たな現実を形成する。その過程を写し出す「コグニトグラフィー」は、翻って人間自身が世界をどのように認識し、解釈しているのかを見る者に突き付ける。

苅部太郞:
1988年愛知県生まれ。心理学、公衆衛生、金融、ITの領域で経験を積み、報道写真家として活動。近年は、生成
AIなどの先端技術を用い、その認知構造を探究。東京都写真美術館『ふたたびくみたてる 日本の新進作家 vol.23』に参加。主な著作に『あの海に見える岩を、弓で射よ』(Troublemakers Publishing刊)など

「ふたたびくみたてる 日本の新進作家 vol.23」  
会期:2026年9月30日(水) ~ 2027年1月17日(日) 
会場:東京都写真美術館
*展覧会の詳細は、上記のリンク先でご確認ください。

苅部太郎 個展「COGNITOGRAPHY」  
会期:2026年9月12日(土)~10月11日(日) 
会場:HECTARE(東京都渋谷区神山町40-2 1F)
*展覧会の詳細は、上記のリンク先でご確認ください。

【第1041回】

picture power 写真の力
【作家による解説】「コグニトグラフィー」が写す世界を味わう
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