Sophie Kiderlin Alun John Samuel Indyk

[ロンドン 28日 ロイター] - 8月の夏休みを終えたトレーダーたちは地政学問題から金融政策、人工知能(AI)ブームの行方、欧米の政治情勢など市場を取り巻くさまざまなリスクに直面することになる。

今後の市場動向を占う上で注目される主なポイントを挙げた。

(1)戦争はいつまで続くか

米国・イスラエルとイランの戦争は、ここ数カ月の市場を動かす大きな要因だ。トレーダーらは重要な海上輸送路、とりわけホルムズ海峡がいつ、どのような形で再開されるのかを見極めようとしており、その思惑から原油・天然ガス価格は大きく変動。エネルギー価格の上昇はエネルギー関連株を押し上げる一方で、エネルギー多消費企業には逆風となり、インフレ圧力の高まりを通じて国債市場にも悪影響を及ぼしている。

世界経済はこれまでエネルギー高に耐えてきたものの、当初のショックを吸収していた市場の緩衝材は徐々に薄れつつある。

長期投資家の間では、地政学的・経済的な再編を見据える動きも広がってきた。例えばホルムズ海峡を回避するパイプライン建設や、サウジアラビア、パキスタン、トルコなどによる新たな地域連携の可能性が検討されている。

(2)FRBと日銀が正念場

米連邦準備理事会(FRB)と日銀が同じ週に金融政策決定会合を開く予定で、市場には二重のボラティリティー要因となりかねない。FRBのウォーシュ議長は28日のジャクソンホール会議においてタカ派的な発言を行い、9月16日の利上げ観測を強めた可能性がある。しかし市場参加者は今後の発言内容を引き続き慎重に見極めるだろう。

米財務省による最近の国債市場介入についても注目が集まっている。こうした介入は市場の価格シグナルを歪める可能性があるためだ。ジャクソンホール会議でウォーシュ氏は介入自体には言及しなかったものの「適切な金融政策を実施するためには明確な市場シグナルが必要だ」と述べた。

ウォーシュ氏の講演前に取材に応じたセント・ジェームズ・プレイスのジャスティン・オヌエクウシ最高投資責任者は「FRBが今後どのようにコミュニケーションを行うかは重要であり、それは中央銀行としての信認だけでなく、世界の金利動向にも影響を与える」と指摘した。

一方、最近円安是正のため市場介入を実施した日本では、日銀による9月18日の追加利上げが市場で予想されている。

SMBC EMEAのグローバル市場チーフストラテジスト、ハンク・カレンティ氏は「重要なのは物語と、(植田和男)総裁がどれだけタカ派的な姿勢を示すかだ」と述べ、そのトーン次第で日本の国債利回り曲線の形状が変化する可能性があると語った。

日本の10年国債利回りは3%目前で、1990年代半ば以来の高水準に近づいている。

(3)AI相場はアンソロピック上場が試金石

人工知能(AI)分野への投資熱が続く中で、生成AI「クロード」を手がけるアンソロピックは株式上場する次の大型テック企業としての座を狙っており、6月に実施された宇宙開発企業スペースXの新規株式公開(IPO)に続く案件として注目されている。

報道によると、アンソロピックが目指すのは最大1000億ドル規模の資金調達。巨額の設備投資を支えるために大手テクノロジー企業による社債発行が増加しているだけに、このような調達規模はAI関連銘柄への投資熱を試す新たな材料となってもおかしくない。

マールボロのマルチ資産ポートフォリオマネジャー、ローリー・ダウイー氏は「アンソロピックやオープンAIに関しては、恐らく極めて過熱した評価額が付くだろう」と述べた。

アンソロピックは5月時点で9650億ドルと評価されており、IPO時に1兆ドルの企業価値が認められれば、世界最大級の上場企業の一角に加わることになる。

レバレッジ・シェアーズのシニアリサーチアナリスト、ヴィオレタ・トドロワ氏は「このテーマに対する投資家の熱意が一時的にでも冷え込めば、それを補う緩衝材はほとんど存在しない。影響は新規上場銘柄だけにとどまらず、エヌビディアやマイクロソフト、さらにはAIインフラ需要を前提に高い評価を受けているあらゆる銘柄に波及するだろう」と警告した。

(4)フランス財政を巡る攻防

フランス政府は数週間以内に来年の予算案を国民議会へ提出する見通し。2027年の大統領選挙が近づき、世論調査では極右勢力の台頭が示唆されており、財政赤字の抑制を目指す政府の姿勢を巡る政治的攻防が予想されている。

チューリッヒ保険グループのチーフエコノミスト、ガイ・ミラー氏はそうした情勢が「フランス国債利回りが上昇するリスクはある」と述べた。ただ「ユーロ圏の債務市場全体の構造を揺るがすほどではない」との見方を示した。

ドイツでも州議会選挙が相次いで予定されている。メルツ首相は複数の政治的失策により支持率が低迷しており、一部選挙では極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が与党陣営を得票率で上回る可能性も指摘されている。

(5)バーナム政権下の英国

英国のバーナム新首相の政策は今のところ市場を大きく動揺させていない。しかし限られた財政余地の中で成長促進を目指す政策運営が波乱につながるかもしれない。10月の予算発表と9月に開催される労働党大会は、バーナム氏とヒーリー新財務相にとって重要な試金石となるだろう。

英国の10年国債利回りは依然として高水準にあるものの、5月に記録した18年ぶりの高水準からはやや低下。2022年のいわゆる「ミニ予算ショック(トラス・ショック)」の記憶がなお市場参加者の間に残っており、これが新政権に対する抑制要因になる可能性もあり、バーナム氏は英国の財政規律を維持する方針を示している。

ベレンベルク銀行のシニア英国エコノミスト、アンドリュー・ウィシャート氏は「政府が限界まで財政拡張を試みるリスクはあるが、それは誤りになるだろう」とくぎを刺した。

(6)米議会中間選挙

11月に予定される米議会中間選挙に向けて、例年通り9月から選挙運動が本格化するとみられ、その影響は政策運営にも及んでもおかしくない。消費者が特に注目しているのはガソリン価格だ。イランとの戦争によって全米の平均価格は1ガロン当たり4ドルを超え、1月時点の3ドル未満から大幅に上昇している。

トランプ大統領は今月「イランを打ち負かすためなら価格上昇は受け入れる価値がある」と国民に訴えた。しかし一部アナリストの見立てでは、中間選挙前には価格を引き下げたいとの思惑が政権内にある。

ジェフリーズのチーフ欧州エコノミスト、モヒト・クマール氏は、中間選挙とベセント財務長官による長期金利引き下げ策を関連付けた上で「トランプ政権は中間選挙を前に長期金利の上昇を容認できない。住宅ローン金利は米国債利回り曲線の長期ゾーンに連動しているためだ」と指摘した。

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