[25日 ロイター] - 債務残高が膨らんだ各国政府の借入コストが上昇し、国債市場に緊張が高まるとともに、投資家たちはかつて考えられなかった問いに向き合わざるを得なくなった。それは「最終的に中央銀行が財政負担の手助けをすることになるのではないか」というものだ。

この「財政支配(フィスカル・ドミナンス)」は、今週米西部ワイオミング州ジャクソンホールで開催される年次シンポジウム(ジャクソンホール会議)において、米連邦準備理事会(FRB) のウォーシュ議長や世界の著名な経済学者、中銀関係者が議論する主要テーマの1つとなる見通しだ。

財政支配とは、政府が自力で財政運営を続けることが難しくなり、中銀に国債購入やその他の支援を求める状況を指す。長年にわたり先進国ではこうした考え方は事実上の「禁じ手」とみなされてきた。なぜなら中銀が財政赤字を埋めるために紙幣を増発すれば、インフレを招き、通貨価値を下落させ、海外投資家の信認を損なう恐れがあるからだ。

反対に政治的圧力から独立した中銀であれば、インフレ抑制に専念できる。その結果として自国通貨や国債への信頼を維持しやすくなる。

だが世界的に公的債務膨張が続く状況にあって、財政政策と金融政策の境界線をどこに引くべきかという議論が再び活発化している。

◎政府が市場の圧力にさらされる事態

理論上は、政府の借入コストが金融市場で急上昇した場合、それは財政健全化を求めるシグナルとされる。つまり歳出削減や増税によって財政を立て直すべきことを意味する。しかし現実には、こうした政策は政治的に大きな痛みを伴う。そのため各国政府はこれまでも、資本流出規制を行ったり、国内投資家に国債購入を促したりといった手段を講じてきた。そして最も実行しやすい方法として、中銀に資金を供給させる、いわゆる「紙幣増発」に頼る誘惑が存在する。

もっとも中銀が新たにお金を発行して政府へ資金提供する「財政ファイナンス」は、アルゼンチンの深刻なインフレや歴史的にはワイマール共和国時代のドイツにおけるハイパーインフレを招いた例として知られ、近年の先進国ではこのような手法は原則として禁止されている。

◎財政・金融線引き巡る議論再燃の理由

公的債務は、2008年の世界金融危機以降一貫して増加を続けてきた上に、新型コロナウイルス禍によってその流れがさらに加速した。米国では経済成長が続いているにもかかわらず、19年以降の財政赤字は毎年国内総生産(GDP)比4%を超えている。通常この水準の赤字は景気後退期に見られる規模とされる。

これまで投資家は増え続ける国債発行を吸収してきたが、その需要には徐々に限界が見え始めてきた。実際超長期国債の利回りは大きく上昇し、国債入札における資金調達コストも押し上げられている。

米財務省は既発債の買い戻しを増やすことで市場への負担軽減を図ってきたものの、その効果は限定的だ。FRBと異なり、財務省には通貨を発行する権限がなく、利用できる資金にも限りがあるためだ。

また政治的介入をうかがわせる動きとして、ベセント米財務長官は海外発の市場混乱から米国債市場を守るために、FRBが外国中央銀行向け融資制度の拡充を検討すべきだとの考えを示した。

◎中央銀行は支援を迫られるか

FRB、欧州中央銀行(ECB)、日銀といった主要中銀は制度上は独立しており、これは「金融支配(マネタリー・ドミナンス)」と呼ばれる。

FRBによる国債購入策に反対して2010年に理事職を辞任したウォーシュ氏は、自身がパウエル前議長よりもトランプ大統領の意向に従いやすいのではないかという見方を否定している。

ただ歴史を振り返れば、中銀の独立性と政府支援の境界線は必ずしも明確ではない。

例えばFRBは11年に「オペレーション・ツイスト」を実施した。短期国債を売却し、長期国債を購入することで経済全体の金利低下を促すこの政策は、雇用と物価安定というFRB本来の使命に基づいて正当化されたが、結果として米政府の資金調達コストを下げる効果ももたらした。

日本では、日銀が約10年にわたり長期金利を抑制する政策を続けたことで、世界有数の債務国である政府の資金調達を容易にした。また近年の高インフレにも比較的寛容だった背景には、政府からの圧力があったとの見方もある。

ECBについても、大規模な国債購入プログラムをめぐり同様の批判が向けられてきた。

◎今後どうなるのか

現時点で財政支配の現実化は、あくまで推測の域を出ない。しかし一部では過激な提案も浮上し、米国債の償却や、フランス中銀が保有する国債の帳消しなどのアイデアが再び議論されている。とはいえ多くの主流派経済学者は、そのような措置は市場の信認を損ない、欧州ではEUのルールにも抵触する可能性があると指摘している。

歴史的に見れば、この種の議論は経済的な圧力が強まる局面で繰り返し表れてきた。第二次世界大戦中、FRBは戦費調達を支援するため、実質的に国債利回りの上限を設定していた。だがこの体制は1951年の財務省とFRBによる「協定(アコード)」で終了し、中銀の独立性が回復された。この協定は現在でも中銀独立の象徴的な出来事と考えられている。

それでも世界各国の債務残高がさらに膨張し続ける現状で、投資家たちは改めて「政府と中銀の距離は本当に今後も保たれるのだろうか」と問いかける姿勢を強める一方だ。

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