韓国の人気音楽グループBTS(防弾少年団)が、来年2月開催の第69回グラミー賞に楽曲をエントリーしないと発表した。新設された「最優秀アジアン・ポップ・ミュージック・パフォーマンス」部門への反発とみられる。
BTSのメンバー7人はインスタグラムの投稿で、「音楽が地域や言語で区分されるのではなく、そのままの姿で聴かれ、愛されることを願っている」と訴えた。
グラミー賞の規定では、アジアン・ポップは「独自性を持ち、世界的に認知されたポップ音楽の一形態」であり、新部門は「アジアの言語を1つ以上、有意義な形で使用した」楽曲を評価することを目的としている。
規定はさらに、アジアン・ポップの特徴として「音楽、パフォーマンス、演出を一体的に捉えるアプローチ」を挙げている。いわゆる「アイドル」的なプロデュース方式を指しており、例としてKポップ、Jポップ、Cポップ(中国語圏のポップ音楽)が挙げられている。
戦後の日本で生み出された「アイドル」は、10代またはそれ以前から歌やダンス、演技、語学などの特訓を受けたポップパフォーマーだ。楽曲制作からマーケティング、イベント運営まで1つの芸能事務所が一体的に担う場合が多いが、音楽ジャンルは国や地域、事務所によって異なる。
Kポップが韓国から世界に輸出されるアイドル音楽とほぼ同義なのに対し、Jポップは1980年代に日本のラジオで邦楽と洋楽を区別するために生まれた表現とされる。新部門の有力候補といわれる日本人アーティストには、米津玄師のようにアイドル型の育成・プロデュースとはほぼ無縁のシンガーソングライターもいる。
中国出身者も、アジア各地で行われているアイドルグループのオーディション企画で大きな存在感を示してきたが、Cポップは地域や言語によって多様なジャンルに細分化される。だがそうした多様性は、グラミー賞の新部門の規定には反映されていない。
グラミー賞はアメリカを拠点とする賞であり、「アジアン・ポップ」という呼び方はアジア系アメリカ人に共通する帰属意識の表れかもしれない。BTSは2021年にアメリカでアジア系住民へのヘイト犯罪が相次いだ際に、彼らへの連帯を表明した。
とはいえ、新部門の規定はアイドル的な育成・プロデュースシステムを優遇し、それ以外のポップ音楽の作り方や、西アジアや南アジアの音楽を軽視しているように見える。この問題は、そもそもグラミー賞はアジアン・ポップがどんなものかを規定する立場にないという当然の事実を浮き彫りにしている。
筆者はBTSが英語圏で注目され始めた当時、KポップとJポップを研究していた。そこで気付いたのは、英語メディアがアメリカでの成功を「世界的」成功の最高の基準と見なしがちということだ。
この見方は、世界の音楽市場で日本が2位、中国が4位を占めるという事実を無視している。さらに、アジア各地で長年続くポップ音楽や大衆文化の交流も見落としている。
ポップカルチャー研究者の岩渕功一は、この現象を「アジア間での相互参照」と呼び、欧米の経験に基づく従来のアプローチや理論を問い直す手段になると指摘している。
アジアのポップ音楽をアーティスト自らが定義する可能性を示した一例が、日本の人気ヒップホップアーティストAwichによる国際プロジェクトだ。ロックやポップスにも歌唱や作詞で参加してきた彼女は昨年、韓国、中国、インド、カンボジアの著名ラッパーらと楽曲「アジアン・ステート・オブ・マインド」をリリースし、ミュージックビデオも公開した。
5人は楽曲の中の各自の担当部分で、自分を音楽に駆り立てるものや、故郷が音楽に与えた影響を表現。カンボジアのラッパー、ヴァンダは「言っただろう、今こそ植民地主義を脱する時だ」と英語で宣言した。
グラミー賞を主催する米国レコード芸術科学アカデミーのCEOハーベイ・メイソンJr.は、新部門の創設に当たって関係者から意見を聞いたと強調する。例えば24年に新設された「最優秀アフリカン・ミュージック・パフォーマンス」部門では、何度もアフリカを訪れて、現地のアーティストの声が選考プロセスに届いていなかったと認識したと語っている。
BTSのグラミー賞エントリー見送りを受け、メイソンは同アカデミーが「世界の音楽コミュニティーの声に耳を傾け、世界を動かす音楽を生み出す全てのアーティストをたたえ、祝福するよう努力し続ける」と表明した。
だとすると、大きな疑問が残る。今回のアジアン・ポップ・ミュージック・パフォーマンス部門の新設に当たって、彼らはいったい誰の声を聞いたのか。
BTSの決断によってアジアのポップ音楽にスポットライトが当たったのは間違いない。ただしそれは米国レコード芸術科学アカデミーが意図した形ではなかったようだ。
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Dorothy Finan, Lecturer in Cultural Industries, University of Leeds
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