収入を隠しやすい風俗業に「覆面調査」

覆面調査である。まじめな先輩は、風俗店に行きたくなくて断ったわけだ。

 「わかりました」

 そう答えると、統括官は安心したようにうなずいた。私には確認しておきたいことがあった。

「ところで“サービス”は受けてもいいのでしょうか?」

「当たり前だ。店に行ってるのに断ったら不審に思われるだろ」

 感情の起伏のない声で統括官が言い切る。(112ページより)

そもそも脱税の原則はとても単純で、「収入(資産)を隠す」か「経費を水増しする」のどちらか。そして風俗業のように、「客が不特定多数で、領収証の発行のない業種」では収入を隠しやすい。

単純に売り上げを除外するだけで脱税が成立してしまうため、覆面調査をして帳簿に表れない実態を把握する必要があるのだ。

――などと聞くと「経費で風俗店に行けるとはうらやましい」と思いたくもなるが、“高揚感はまったくなく、心の中は完全に業務モード”らしい。

こうした話が興味深すぎるので、ときには税務署勤務の人に親近感すら覚えてしまう。が、もちろんそんなことばかりではない。象徴的なのが、重苦しさの漂う後半の展開だ。

きっかけは、かねてから希望していた「内部事務」への異動が認められたことだった。ところが手一杯の業務に忙殺され、その一方でアルバイトの管理なども行い、さらには女性統括官からの叱責を浴び続けることになったのだ。

 ただ忙しいだけではない。何かに追われ、気を抜けばすぐに破綻する。頭の中でタスクが積み上がり続け、必死になってそれを処理していく。――テトリスみたいだ。上から次々と落ちてくるブロックを一心不乱に並べて消していく。だが、少しでも判断を誤れば一気に積み上がり、ゲームオーバーになる。(145〜146ページより)

税務署員に限らず、誰にでも起こりうる話
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