Laura Matthews

[ニューヨーク 23日 ロイター] - かつて株式市場が下落した際の避難先として債券を利用してきた米国の一部投資家が、債券に代わってコモディティー(商品)、インフラ、プライベートクレジットなど、インフレに強い資産への配分を増やしている。

背景にはインフレの長期化や巨額の政府債務、政策を巡る不透明感に加え、株式と債券が同時に下落する局面が増えている事情がある。米消費者物価指数(CPI)の前年比上昇率は現在3.5%まで低下しているものの、米国とイランの緊張激化が原油価格の上昇を通じて再び物価圧力を高めるとの懸念もくすぶっている。

資産運用会社オセイクのチーフ市場ストラテジスト、フィル・ブランカート氏は「債券がポートフォリオの保険として機能するのは物価上昇率が低い局面だけ」と言い切る。同社は最近、伝統的な株式60%・債券40%のポートフォリオにおける債券比率を40%から31%へ引き下げる一方、コモディティーへの配分を6%に拡大した。15年ぶりのコモディティー投資で、株価急落時に債券が十分な下支え役を果たせなくなっているとの判断が働いている。

複数の投資家の話では、通常は物価上昇率がおよそ2.7%を超えると、株式と債券の相関関係がプラスに転じやすい。これは両資産が同じ方向に動くことを意味し、債券によるリスク分散効果が低下する。もっとも例外は景気後退局面で、依然として米国債がヘッジ資産として機能する。

ブランカート氏は、こうした環境を受けてオセイクが債券のパッシブ運用から、ローン担保証券(CLO)や住宅ローン担保証券(MBS)、高利回り債といった分野でのアクティブ運用に軸足を移しつつあると説明した。

バージニア州退職年金基金も、債券比率を16%に維持しながら、クレジット資産やプライベート不動産、インフラ投資を増やしているほか、さまざまなインフレシナリオに備えるため、運用におけるレバレッジ活用の幅を広げることも検討している。

同基金のチョン・マ副最高投資責任者は「これまでのように株式と債券の負の相関関係に必ずしも依存するつもりはない」と語った。

実際、モーニングスターのデータによると、債券ファンドの運用資産総額は5月末時点で7兆9000億ドルに達しているが、投資家が保有するファンド資産全体に占める債券の割合は2016年の25.7%から20.3%に、25年からも4.8%それぞれ低下しており、08年5月以降最低比率を記録。投資資金が株式やその他の資産クラスへ流れていることがうかがえる。

ノーザン・トラストのマーケットソリューションズ責任者を務めるグラント・ジョンシー氏は「長期的に見れば、持続的なインフレや通貨価値の下落、国債供給の拡大によって債券リターンは侵食される可能性がある」と警告する。

同氏は「今後数年間でこうした要因のいずれか、あるいは複数が現実になることを多くの投資家が懸念している。特に期間5年を超える長期債には下振れリスクの要素が多く、追い風が不足している」と述べた。

米連邦準備理事会(FRB)は政策金利を3.50-3.75%に据え置いているが、10年国債利回りは約4.6%、30年国債利回りは約5.1%で推移。市場参加者がインフレの粘着性を見込んでおり、長期間資金を固定する対価としてより高い利回りを要求している状況が示唆されている。

こうしたインフレ懸念に伴って、投資家が注目しているのは購買力を維持しやすい資産だ。脱グローバル化や供給制約、防衛支出の拡大といった構造変化が、高インフレ環境を長引かせるとの見方が背景にある。

カナダのサガード・ウェルス・マネジメントのスティーブン・ハーベイ最高投資責任者は、現在の世界経済について「成長とインフレを後押ししやすい環境だ」と分析し、市場への影響力は金融政策よりも財政政策の方が大きくなっていると指摘する。

同社はこの1年で顧客資産を大半の先進国の債券から引き揚げ、コモディティー、金、不動産、インフラで構成される「資産保全ポートフォリオ」への投資を進めてきた。ハーベイ氏は「債券はインフレの負け組だ」と語る。

ステート・ストリート・インベストメント・マネジメントのグローバル投資戦略責任者、ジェン・ベンダー氏によると、新型コロナ禍後のインフレショック以降、実物資産への関心が高まっている。債券の見通しが不透明となるとともに、大幅上昇が続く株式市場にも調整リスクへの警戒感が強まっているためだ。

同社では今年、コモディティー関連商品への資金流入が最も顕著で、インフラや天然資源関連への需要も拡大している。主力の実物資産戦略に基づく商品は25年に約6%の純資金流入があり、その勢いは現在も続いているという。

運用成績もこうした動きを後押ししている。5月末時点で、広範なコモディティー指数は23.2%、世界の天然資源関連資産は19%、米国不動産投資信託(REIT)は13.6%のリターンを記録した一方、米国債のリターンはほぼ横ばいにとどまった。

ベンダー氏は「市場の懸念は株式の下落リスクにあるが、その資金の避難先として債券は選ばれていない。結果として、投資家の行き着く先は基本的に実物資産だ」と話している。

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