30年前、世界初のクローン哺乳類として誕生した羊のドリーは、科学史上最も有名な動物の1頭となった。ドリーの誕生をきっかけに、クローンペットやクローン人間、さらにはマンモスのような絶滅動物の復活まで実現するSFのような未来が語られた。
しかし現実は、そう単純なものではなかった。
現在のクローンは生物を単純に「コピー&ペースト」する技術ではない。むしろ、多様な生物工学の1つに位置付けられ、病気の仕組みの解明や自然保護の取り組み、生命を操作する新たな手法の開発に役立っている。
動物のクローンは、主に体細胞核移植と呼ばれる手法で作られる。それによって生まれた個体のDNAは、提供元の個体とほぼ同一だ。ただし、哺乳類のクローンは今でも成功率が低く、ドリーの誕生には277回ものチャレンジが必要だった。
最大の関門はDNAを複製することではなく、高度に分化した成体細胞に、それまでの役割を「忘れさせ」、受精直後の胚のような状態へ戻すことだ。
この初期化は不完全なことが多いため、多くのクローン胚は正常に発育できない。だがその研究の過程で、成体細胞をiPS細胞(人工多能性幹細胞)に初期化できるという別の大発見が生まれた。
この発見は新薬の開発や再生医療の可能性を大きく広げた。クローン研究によって、分化した細胞も永続的に固定された存在ではなく、生物学的に「書き換え可能」であることが示されたのだ。
絶滅した動物は甦るか
クローン技術の有望な用途として、絶滅危惧種の個体数の回復がある。2020年には、数十年前に死んだクロアシイタチの冷凍保存されていた遺伝物質を使ったクローンの作製に成功した。
しかし、絶滅した動物をよみがえらせる構想の科学的なハードルは極めて高い。真のクローンを作るには、完全なゲノムと適切な卵細胞、さらに代理母となる近縁の種が必要だ。マンモスのように数千年前に絶滅した動物では、古代DNAが損傷していることが多いため実現は難しい。
そのため研究者たちは、絶滅種をそのまま再現するのではなく、現存する近縁種の遺伝子を改変して絶滅種の特徴を取り込もうとしている。将来誕生するのは本物のマンモスではなく、遺伝子編集されたゾウになる可能性が高い。
一方、クローン技術によって遺伝的に似通った個体を増やしすぎれば、その種全体の感染症などへの抵抗力が弱まる恐れもある。
長年の議論にもかかわらず、人間のクローンは実現していない。最大の問題は安全性だ。動物のクローン作製でさえ成功率は依然として低く、その技術を人間に応用すれば、胚や代理母、誕生する子供に多大な危険が及ぶ。
こうした理由から、クローン人間の誕生を目的とした技術は、多くの国で禁止、あるいは厳しく規制されている。
クローン研究は病気の研究や農業、絶滅危惧種の保全の発展に貢献してきた。しかし安全性や規制、そもそも実用化を目指すべきかという議論の答えは今も出ていない。
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Sathana Dushyanthen, Academic Specialist & Senior Lecturer in Cancer Sciences & Digital Health | Superstar of STEM | Science Communicator, The University of Melbourne
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