[ドバイ 22日 ロイター] - トランプ米政権(共和党)は、サウジアラビア国内でのウラン濃縮や使用済み核燃料の再処理を容認することを盛り込んだサウジとの原子力協定を支持している。一方、核兵器拡散を懸念する米議員の一部や中東諸国からは批判や警戒の声が上がっている。
米・サウジの原子力協定を巡る主な論点をまとめた。
<これまでの流れ>
米国とサウジは数年前から、サウジに米国の原子力技術へのアクセスを認めるとともに、米企業がサウジで原子力施設建設関連の大型契約を獲得するチャンスを与える原子力協力協定について協議しており、安全保障や核兵器拡散、そして火種の多い中東地域における政治的な複雑さが、主要な懸念事項となってきた。
核兵器不拡散条約(NPT)の全ての締約国と同様に、サウジはすでに核兵器を開発しないと約束し、国際的な査察も受け入れている。ただ、米国は従来、こうした合意の取り付けに加えて、さらなる保障措置を求めてきた。
トランプ政権は22日、協定案を議会に提出したと発表した。議会には協定の発効を阻止するため90日の審査期間が与えられるが、大統領の拒否権を覆すには上下両院で3分の2以上の賛成が必要となる。
今回の協定には、サウジによるウラン濃縮と使用済み核燃料の再処理を禁止する、いわゆる「ゴールド・スタンダード」は盛り込まれていない。また、国際的な監視を強化する「追加議定書(AP)」も含まれていない。ウラン濃縮と使用済み燃料の再処理は、核弾頭に使用する核物質を製造する経路となり得る。
こうした規定がないことが、イスラエルなど米国の中東同盟国の間で懸念を引き起こす可能性が高い。また、米国が今年の対イラン攻撃を正当化する理由の一つとして、イランがウラン濃縮計画を放棄することを拒否したことを挙げているだけに、サウジとの協定は米国の政策の一貫性にも疑問を投げかけることにもなる。
今回の協定を巡っては米議会の一部議員が反対している。議員らはこれまで、サウジとのいかなる協定についても厳格な制限措置を設けるよう求めてきた。
<サウジが原子力計画を望む理由>
世界最大の原油輸出国であるサウジは、一見すると原子力発電に取り組む必要性が高いようには見えない。しかしサウジは、ムハンマド皇太子の経済計画の下、二酸化炭素(CO2)排出量を削減するとともに、原油の国内消費を減らして輸出にまわすことを目指している。
サウジの電力の大半はガスと石油を燃料としている。原子力発電を導入すれば、ガスと石油の一部を代替できるほか、エネルギー消費の多い海水淡水化や空調にも利用できる。こうした取り組みによって原油を輸出に回し、石油販売による収益を増やすことができる。
ただ、サウジは、長年の敵対国イランが核兵器を開発すれば、自国も追随せざるを得ないと表明している。イランへの圧力を強めるのが狙いとみられるが、サウジ自身の核開発構想に対する懸念も根強い。
クリス・マーフィー上院議員(民主党)は短文投稿サイト「X」への投稿で、「この協定は中東地域で核競争を引き起こし、イランが自国の核計画を制限する動機をさらに失わせる」と批判した。
原発導入国の多くは、国内でウランを濃縮せず、原子炉用核燃料を輸入している。しかしサウジは2025年1月、原子力発電用燃料の原料となる「イエローケーキ」を生産し販売するため、ウラン濃縮を行う方針を示した。
<米国のメリット>
米国にとっては、戦略面と商業面の双方で利益が見込まれる。民生用原子力分野での協力は、米国がサウジとイスラエルの国交正常化を仲介しようとした際、サウジへの安全保障上の保証とともに重要な材料の一つとなっていた。
サウジは、パレスチナ国家樹立が実現しない限りイスラエルとの国交正常化には応じない姿勢を示しており、ロイターが報じたところによると、現在は原子力協力とイスラエル・サウジ国交正常化は切り離されている。しかしそれでも、協定は米国がサウジとの外交関係を進展させる上で「あめ」となる可能性がある。
民生用原子力協定が成立すれば、米国の原子力産業はサウジの原子力発電所建設契約を獲得する上で有利な立場に立てる。米国は1954年の米原子力法123条に基づき、他国との大規模な民生用原子力協力に関する協定について交渉することが可能だ。
<サウジには他の選択肢>
米国とサウジの協定が、たとえ最終段階に入った今になって頓挫しても、サウジの原子力計画に関心を示している、あるいは潜在的なパートナーとみられている原子力産業国は複数ある。
中国国有企業の中国核工業集団(CNNC)は2023年、原子力発電所の建設を巡る入札に参加したと報じられた。エジプトで原子力発電所を建設したロシアの国営原子力企業ロスアトムも、サウジと原子力協力に関する予備的な協定を締結している。このほか、隣国アラブ首長国連邦(UAE)で原子炉を建設した韓国やフランスも候補となる可能性がある。
<焦点はウラン濃縮>
最大の焦点の一つは、米国がサウジ国内にウラン濃縮施設を建設することに同意する可能性があるかどうか、同意するとすればいつなのか、さらにはサウジ側の技術者や職員が施設に関与できるのか、それとも「ブラックボックス」方式で米国人スタッフだけが運営するのかという点だ。
協定に厳格な保障措置が組み込まれていなければ、国内にウラン鉱石の埋蔵量を持つサウジアラビアは、理論上、濃縮施設を利用して高濃縮ウランを製造することが可能になる。十分に純度を高めれば、核兵器に使用できる核分裂性物質を得ることもできる。
関係筋はロイターに対し、米国とサウジの協定案には、ウラン濃縮を含む核燃料サイクル分野での協力に向けた法的な枠組みが盛り込まれているものの、米国がサウジに関連技術や能力を移転する義務を負う内容にはなっていないと説明した。
外交面の課題もある。米国にとって中東で最も重要な同盟国イスラエルは、サウジの民生用原子力計画に繰り返し反対を表明している。