William Schomberg

[ロンドン 21日 ロイター] - 英国のバーナム首相は、新政権の財務相にスターマー前政権で国防相を務めたジョン・ヒーリー氏を起用した。予想外の人事を受け、需給が逼迫する債券市場や成長に苦しむ英経済を巡っては、新政権が今後どの程度の追加借り入れや増税に踏み切るのか疑問が強まっている。

ヒーリー氏は財務相として堅実な運営が期待できるとの見方が多く、市場に一定の安心感を与えた。一方、前政権で防衛費不足を批判して国防相を辞任した経緯があり、防衛費増額への観測は残る。バーナム氏も公営住宅など社会住宅の拡充を掲げており、政府支出全体が大きく膨らむ可能性が意識されている。

<負担拡大懸念>

バーナム氏はまた、所得税の基礎控除額の引き上げを示唆するとともに、公的年金の支給額を毎年引き上げる仕組み「トリプル・ロック」制度を維持する方針を示した。同制度はより低コストの代替案に比べ、負担が推定130億ポンド(約2兆8388億円)増えるとされる。加えて、歴代政権が対応を避けてきた数十億ポンド規模の課題である介護危機にも取り組む考えを示した。

これらの財政負担について資産運用会社フランクリン・テンプルトンの欧州債券責任者を務めるデービッド・ザーン氏は「相当な金額の話になってきている」と警戒する。

実際、バーナム氏が20日、財政ルールの枠内で柔軟に対応する考えを示すと、金利は急上昇した。ただ新財務相が、グリーン投資の財源を借り入れで賄うことに前向きとされ、投資家の懸念を招いていたエド・ミリバンド元エネルギー相ではなく、ヒーリー氏に決まったことで、国債市場はいったん落ち着きを取り戻した。

2000年代のブラウン政権下で財務省の副大臣級ポストを2回務めたヒーリー氏には、英国の財政運営について実務経験がある。

<投資家は様子見>

しかしバーナム氏とヒーリー氏の関係は依然として不透明だ。

証券会社XTBの調査ディレクター、キャスリーン・ブルックス氏は「ヒーリー氏がバーナム氏と同じような発信をするのか、あるいはバーナム氏の『財政運営の柔軟化と多額の支出』のメッセージを和らげて市場や納税者を安心させることができるのか、しばらく様子見が必要だ」と述べた。

資産運用助言会社デビアー・グループのナイジェル・グリーン氏はより批判的な見方を示した。グリーン氏は「ヒーリー氏の起用は、支出拡大への圧力が消えたことを示す証拠ではない」と述べ、「これは、バーナム氏自身がどこまで踏み込めるかを見極めている間、市場に安心感を与える必要があると認識していることを示している」と指摘した。

<財政余力は乏しく>

英経済は他の欧州諸国の多くと同様に、約20年前の金融危機以降、低成長に苦しんでおり、コロナ禍やウクライナ戦争などのショックを相殺するための政府支出を通じて債務が膨れ上がっている。

21日に発表されたデータは、追加支出に関する新政権の制約も浮き彫りにした。政府が30年までに税収との均衡を図ろうとしている経常支出は、今年度の最初の3カ月で税収を420億ポンド上回り、この赤字幅は予算策定時における想定を13億ポンド上回った。

これらの想定には、シンクタンクのレゾリューション財団が約140億ポンドと試算するイランでの戦争による財政への影響はまだ含まれていない。

これを織り込めば、ヒーリー氏が30年の目標達成に向けた軌道を維持するために使える財政余地は、歴史的にみて極めて小さい100億ポンドにとどまる。しかも、防衛や住宅、その他の優先分野で追加支出を行う前の段階での話だ。

バーナム氏が21日に打ち出した第1弾の生活費支援策である、家庭向け電力料金への付加価値税撤廃についても、デジタルID計画廃止で財源を全額賄えるという新政権の主張には疑問を呈する声が出ている。

スターマー前首相の盟友で財務省首席政務次官を務めたダレン・ジョーンズ氏は「政府は予算で、新政策の財源をどのように賄うのかを示さなければならない」と述べた。

<秋に増税計画か>

財政がこれほど逼迫している以上、ヒーリー氏が秋にも示すとみられる最初の本格的な税制・支出計画で増税に動く可能性に注目が集まっている。

バーナム氏は、財政目標の達成を維持するためには、税金に関して「もう少し求めざるを得ない」かもしれないと発言している。

一方で主要な税率を引き上げないという労働党の24年の選挙公約を守ると明言していることから、キャピタルゲイン、相続、不動産購入への増税、あるいは新たな富裕税の導入などが選択肢となる可能性がある。

コンサルティング会社パンテオンの英国担当チーフエコノミスト、ロブ・ウッド氏は「税収を財源とした支出が増え、政府は財政ルールが許す限りの借り入れを増やすだろう」と予想し、インフレ圧力が高まるほか、場合によっては金利が上昇する恐れもあると付け加えた。

フランクリン・テンプルトンのザーン氏は、スターマー前政権による増税の不確実性が経済の重しとなったことを踏まえ、新政権が財政計画の発表を遅らせることになれば危険が伴うと指摘した。

ザーン氏は「予算案を11月末まで待たずに、より早く提示することが極めて重要だ。不確実性が長引けば長引くほど、市場はそれを嫌うだろう」と述べた。

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