その手紙の一節に下山さんはこう書いたそうだ。
〈私は、この本で、「生命倫理と技術の相剋」の歴史を書こうと思っていましたが、決して交わらないと思われた「相剋」だけではなく、お嬢様のお話は、両者の「架け橋」となるような話なのではないか、と思ったのです〉
「決して交わらないと思われたものとの間に橋が架かることがある」。この言葉は、私に静かな希望を与えてくれた。対立しているように見える立場の間にも、時間をかけて変化や接点が生まれていく。
本書『命を選ぶ』を読み終えると、世界の見え方は少し変わるはずである。少なくとも、私にとってはそうだった。その変化こそが、この本の価値なのだと思う。
文責:松尾美里

下山進(しもやま すすむ)
ノンフィクション作家。『アルツハイマー征服』(2023年 角川文庫)を取材するなかで、遺伝病の連鎖を断つ現在の唯一の手段である「着床前診断」が日本では厳しく規制されていることを知った。そこから日本でその扉をあけることになった一人の女性と知り合い、遺伝病当事者・障害者団体・産婦人科医・小児科医ら多方面への取材を重ね、本書をものした。1993年コロンビア大学ジャーナリズムスクール国際報道上級課程修了。2019年3月文藝春秋を退社し独立。著書に、『2050年のメディア』(2023年 文春文庫)、『がん征服』(2024年 新潮社)、『勝負の分かれ目』(2002年 角川文庫)、『持続可能なメディア』(2025年 朝日新書)など。AERAで2ページのコラムを連載中。元慶應義塾大学総合政策学部特別招聘教授、上智大学新聞学科非常勤講師。現聖心女子大学現代教養学部、立教大学社会学部非常勤講師。
flier編集部
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