野口さんは、同じ境遇にあった女性とともに患者会を設立した。日本産科婦人科学会に着床前診断を認めてほしいという渾身の申請をしたが、最初は却下されてしまう。
下山さんは、着床前診断を認めるよう求めた当事者だけでなく、反対する立場の論者にも一人ひとり丁寧に取材をしている。後者は、胚の段階での選別が「命の選別」や優生思想につながるのではないかという立場である。
「それぞれの立場に、積み重ねてきた歴史や時代背景があるわけで、それを丁寧に取材して、読者に見せることがとても大事だと思っています」
実際、私も最初のうちは、なぜ、こんなにも過酷で切実な環境にいる人たちに、「着床前診断」を認めないのか、という疑問を持って読み進めていたのだが、反対派の人たちの声を聞くと、また違った印象を持つようになった。たとえば、反対運動を1990年代から続けてきた米津知子さんについて下山さんはこんなふうに書いている。米津さんは脚に障害がある。
〈障害者である自分は、出生前診断に対して、「なぜ生まれる前に障害のあるなしで差別するのだ」と怒っている。が、女性である自分は、「それでも産むか産まないのかを決めるのは女性なのだ」と思う。それはいつまでたってもひっぱりあって、自分は千切れそうだ、そう米津は感じている〉
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