「2004年、日本産科婦人科学会の公開倫理委員会で、着床前診断の規制は固まっていきました。そこでは筋強直性ジストロフィーを患う女性が自らの体験を語り、涙ながらに理解を求めたが、その発言を報じたメディアは一社もなかったのです」

下山さんは、ノンフィクション『命を選ぶ』の中で、なぜ遺伝病の当事者たちが「着床前診断」を受けたいと望んできたのか、その声がなぜそれまでメディアで報じられてこなかったのか、本書でその背景を含めて明らかにしていこうとする。

「寄り添う」だけでは見えてこない事実がある

なぜ、この問題は「ないもの」とされてきたのだろうか。

「戦後、1996年まで続いた優生保護法のもとで、遺伝病や障害を理由とした強制不妊手術が行われてきました。その記憶は、現在もなお社会に影響を与えています。1970年代には、障害者運動団体である『青い芝の会』が生まれ、この理不尽に強烈な異をとなえ、運動を展開しました。優生保護法の廃止を迫るとともに、公による出生前診断に反対する運動です。その思想は、やがてメディアや倫理学者に大きな影響を与え、『出生前診断=優生思想』という強固な枠組みを形成していきました」

実名で理不尽を問う、「着床前診断を認めてほしい」という渾身の申請
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