Tamiyuki Kihara Yoshifumi Takemoto

[東京 22日 ロイター] - 円安が一時39年ぶりの水準に達したことで、政府内には動揺が広がっている。単なる「有事のドル買い」にとどまらず、投機的・構造的な円安要因への危機感があるからだ。これまで試みてきた弥縫策が市場に見透かされているとの手詰まり感も漂う。「次の一手」はあるのか。

<「テクニカルな動きだ」>

「投機的な動きだと見るべきだろう」。市場動向に精通する政府関係者は22日、ロイターの取材に応じ、足元の円安についてこう述べた。

ニューヨーク外為市場では21日、中東情勢の緊迫化に伴う原油高で米国のインフレが高止まりするとの見方が強まり、ドルがユーロなどの主要通貨に対して上昇。対円では一時、1986年12月以来、初めて163円を上回った。

「有事のドル買い」と見る向きもあるが、前出の関係者は、2月末の米・イスラエルによるイラン攻撃以降、現在の情勢が最も緊迫しているとは言えないと指摘。円安要因は一つではないとしつつ、「この流れで儲けようとしている人がいるということだ。テクニカルな動きだとの前提で対応を考えることになる」と語った。

<「財政政策を変えるつもりはない」>

政府はこれまでも、折に触れて「市場対策」を講じてきた。長期金利が上昇するたび、高市早苗首相や関係閣僚が市場の信認の重要性を発信。4─5月にかけて複数回の為替介入も実施した。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)などの年金基金による国債投資を後押しする方策を追求するとの発言や、政府の「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」に日銀の独立性への配慮を加筆したことも記憶に新しい。

しかし、ほとんどの「効果」は剥落したと前出の関係者は言う。「責任ある積極財政」を掲げる高市氏は、骨太の方針でも「成長投資」や「危機管理投資」を大胆に進める従来からの方針を強調した。小手先の対応をしても、本質が変わっていなければトレンドそのものを変えることは難しいというわけだ。「政府がなんとなく市場を気にしているというメッセージ発信はできたと思うが、首相は自分の財政政策を変えるつもりはない」と、同関係者は言い切った。

木原稔官房長官は22日午前の会見で、円安について聞かれ、「高市内閣としては、マーケットからの信認を確保しつつ、国内経済への影響を含め、経済財政運営に万全を期していく」と述べた。

<「まさにジレンマだ」>

ここにきて、状況をより難しくしているのは支持率の低下だ。ANNが7月18─19日に実施した世論調査では、内閣支持率が49.2%(前月比マイナス10.9ポイント)と政権発足以来最低を記録した。不支持率は34.8%(同プラス11.8ポイント)と急伸している。

政府与党内には、高市氏自身の足元が揺らぎつつあるとの見方や、2月の衆院選で公約に掲げた財政政策の旗を降ろせば、さらに有権者の反発を招きかねないとの危機感が広がっている。「支持率が下がったことで、首相はさらに消費減税や多額の投資の実現に意固地になるだろう」と、経済官庁幹部は述べた。「政策を進めれば市場が跳ねる。後退すれば支持率が下がる。まさにジレンマだ」

円安急進と高市政権が置かれた現状を、専門家はどう見ているのか。

農林中金総合研究所理事研究員の南武志氏は、163円突破の直接的な引き金は中東情勢にあるとしつつ、「160円台に入ってから当局の度重なる『口先介入』にもかかわらず、米との関係からすんなり為替介入を実施できないとの印象がマーケットにはある」と指摘。リスクオンの状態にもあり、円売りが進みやすくなっていると述べた。

政府が取り得る有効な対応策は、日銀による政策金利の引き上げを容認することだとの認識を示した上で、「財政運営についても、放漫財政との懸念を払しょくするような政府側の発信が大切だ」と語った。ホルムズ海峡封鎖による米産原油の輸入拡大で米の対日貿易赤字が縮小傾向にある中、米債売りにつながる為替介入は「ハードルが高い」とも分析した。

野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏は、イラン情勢に次ぐ円安の引き金として、「骨太の方針で日本の財政への懸念、政府の日銀に対する介入懸念が払しょくされていないこと」を挙げた。政府には財政悪化の懸念を解消する具体的な取り組みが求められるとし、「財政運営目標を債務残高対国内総生産(GDP)比に変更したことは問題だ。従来通りプライマリー・バランス(PB)黒字化をしっかり目標に掲げることが必要になる」と強調した。

骨太の方針に日銀の独立性が加筆されたことにも触れ、「金融政策の具体的手法は日銀に委ねると発信すること自体が、大きな方向性は結局政府が決めるのでは、との憶測を呼ぶ」とも警告。「今後さらに円安が進む可能性は十分にある」との見方を示した。

(鬼原民幸、竹本能文 グラフィック作成:田中志保 編集:橋本浩)

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