「ガチ中華」という言葉を初めて聞いたのは数年前のことだが、語感が語感だけに当時は「町中華の亜流か」くらいの印象しか持てなかった。
だがガチ中華はその後、こちらの貧相な見立てを上回るくらいのペースで広まっていった。
そんな矢先に『ガチ中華移民――日本で増殖する「本場中華料理」の謎』(中村正人・著、太田出版)を知り、ガチ中華は決して町中華の亜流などではないことが理解できた。
いや、理解できたなどと言うのはおこがましいかもしれない。ガチ中華に“相応の存在理由”があるらしいということが実感できたのだ。
そもそも、ガチ中華とは何だろうか?
著者が2021年に立ち上げた「東京ディープチャイナ研究会(TDC)」という“ガチ中華を愛好するSNSコミュニティ”では、当初から次のように定義しているそうだ。
「海を渡って来日した中国および中国語圏の人たちが提供している料理。これまで日本人が親しんできた中華料理とは別モノで、彼らが故郷を懐かしみ、自分たちの好みに合わせて提供する本場の味」(16ページより)
したがってオーナーや料理人、配膳スタッフはもちろんのこと、稀少な食材や飲料の納入業者、店舗の外観や内装を施工する職人、メニューのデザイン制作、デリバリースタッフ、そして来店客までが、中国および中国語圏の人たちであるケースが大半なのだという。
――などと聞けば「それって本格的な中国料理ってことなんじゃないの?」と思いたくもなるが、そうではないらしい。
まず重要なのは、多民族国家である中国の多様性である。ひとことで中国料理と言っても、モンゴル料理、ウイグル料理、朝鮮料理、タイ、ベトナム、ラオス、ミャンマーとつながる東南アジア系の少数民族料理、中国のイスラム教徒である回族によるハラール料理などが存在する。
それらは、かなりの部分が中国国内でローカライズ(現地化)されている。