――マーチの兄や亡くなった工場の従業員など、同性愛者が何人か登場する。その設定にはどんな意味を込めたのか。

僕自身がゲイで、何かの理由づけや正当化することなしに、もっと多くのゲイやクィアが映画に出てきてほしいと思っていた。LGBTQ(性的少数者)のキャラクターには、「なぜその人がそうなのか」という理由を求められがち。でも私は、ただの普通の人として、普通の役柄として彼らを描きたかった。

幽霊はある種のマイノリティーでもあって、社会の中で自分たちの立ち位置を探しているという意味ではゲイと同じ。そこは共通する。

ただ、ナットとマーチは異性愛者のカップルだが子供を欲しくても持てない。兄は同性愛者のカップルだけど息子がいる、というところがなんとも皮肉になっていると思う。

――ナットは「役に立つ幽霊」になろうとする。幽霊になってまで人のために働くという考えは、タイ社会の規範を反映しているのか。

脚本を書いている時、「ユースフル」という言葉からイメージしていたものは2つある。1つは、人を怖がらせるためではなく、仕事をするためにオフィスビルを歩いている幽霊。今は本当に生活して行くのが大変で、幽霊でさえ家賃を払うために仕事をしなくてはいけないので。

もう1つは、LGBTQに関すること。タイはLGBTQフレンドリーな国として有名だが、それでも差別はある。例えば親が子供に、「ゲイでもレズビアンでもいい。ただ良い人であれば。社会の役に立ち、社会に貢献するなら」と言うことがある。

それは「社会に貢献しさえすれば」という条件付きの愛で、とても興味深いものだと思っていた。

だから幽霊でさえ、社会に貢献するなら受け入れてもらえる。これは先ほどの話と同じで、マイノリティーは社会に受け入れられるために何者かになろうと努力させられるということだ。

――ナットが来ているスーツの大きな肩パッドを見て80年代~90年代初めの日本を思い出した。なぜあのような衣装に?

タイでもああいうファッションはありましたね。僕自身が肩パッドの仰々しい感じとか、80年代の女性のファッションが好きで。

幽霊は時代とずれているから、という理由もある。死んでいるのに消え去らず、いわば時間の流れの中に無理やりとどまろうとしている存在。だから今の環境に馴染んではいけなくて、周りとちょっと違う感じがあった方がいい。だからナットの髪の色も赤だったりする。

80年代のオフィスレディーが着ていたスーツは、ナットがこの世に戻ってきて仕事をしていることを象徴している。同時に、彼女の両肩にものすごい重荷があるという意味も持たせている。

ラッチャプーム・ブンバンチャーチョーク監督
政治的な検閲よりも……
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