James Pomfret Yimou Lee

[台北 17日 ロイター] - 昨年12月、中国が台湾の周辺で軍事演習を活発化させていた時期に、台湾の最大野党・国民党の鄭麗文党首が原因は台湾の頼清徳総統にあると非難する動画を、中国共産党系のニュースメディアが交流サイト(SNS)に投稿した。この51秒間の動画は中国の短編動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」の中国版「抖音(ドウイン)」に投稿され、フェイスブックやユーチューブなどにも拡散された。

動画の中で鄭氏は、頼氏が台湾の独立を追求することで「(島民)2300万人全員を」「行き止まり、死への道」へ引きずり込んでいると強調した。

中国が国民党など台湾野党の有力議員が台湾政府を批判した公式発言を取り込み、中国国営メディアやSNS上で与党・民主進歩党(民進党)批判のメッセージとして大量に発信していることが、データや関係者の話で明らかになった。こうした動画クリップはその後、フェイスブックやTikTok、ユーチューブ、抖音など台湾で普及しているプラットフォームに転載・拡散され、中国の関与を見えにくくする形に加工・演出されることも多いという。

台湾の治安当局者らはこうした中国の動きについて、独立志向がある台湾の頼政権の信頼を傷付ける狙いがあると解説する。治安当局者らによると、台湾人の声や発音はより信頼感を持って受け止められやすい。中国側は以前から台湾の著名人をプロパガンダに利用してきたが、最近のこの手法を一段と強化しているという。

台湾の治安当局者5人および台北に拠点を置く調査団体、台湾情報環境研究センター(IORG)がロイターに提供したデータによると、中国の国営メディアは国民党と関係のあるインフルエンサーや政治家らを巻き込み、台湾の与党・民主進歩党(民進党)への批判を増幅させようとしている。

IORGと3人の安全保障当局者は、民進党が400億ドルの追加防衛支出案を承認するように議会へ求めている中で、中国の軍事力が圧倒的であり、台湾が米国製兵器を調達するために巨額を投じるのは無意味だと台湾人に納得させることも狙っているとの見解を示した。

IORGによると、2025年第4・四半期に中国共産党の公式メディアが運営する1076のアカウントによって抖音に計約56万本の動画が投稿された。うち約1万8000本が台湾に関する内容だった。

IORGが顔認識技術を用いて解析したところ、2730本の動画に57人の台湾人が登場しているのを特定。台湾人の声が収録されたビデオの本数は25年10―11月に前年同期の2倍超に膨らんだ。月間投稿時間は2.64倍の369分に跳ね上がった。

中国側が投稿した動画に登場する台湾人上位25人のうち13人が国民党関係者で、現職の立法委員や党代表から過去の国民党政権の元高官まで幅広い。残る2人は中国との統一を支持する小政党の幹部で、10人は民進党批判で知られるインフルエンサーだ。

国民党の鄭氏は中国側の動画に登場する台湾人の中で最多となり、68の抖音アカウントに投稿された動画460本に登場、いいね・コメント・シェアを合わせたインタラクションは500万件を超えた。動画では、中国との「平和」を訴える発言、頼総統を外部勢力の「駒」と批判する言葉、台湾独立をめぐる民進党の立場を「破壊的」と評した発言などが増幅して拡散された。こうしたクリップの一部は、中国の国営メディアやSNSで流れた後、台湾で普及するプラットフォームに転載・再加工されている。

中国​政府で台湾政策を​担う国務院台湾事務弁公室と中国国防省は、中国による情報戦に関するコメント要請に応じなかった。

一方、台湾国防部(国防省)はロイターに対し、台湾は軍隊のメディアリテラシーと心理的な強じん性を強化することで、中国による「認知戦」の急拡大に対抗しているとコメント。台湾総統府は、台湾と中国の平和は「強さに基づいて築かれるべきであり、権威主義的な圧力への譲歩に基づいてはならない」と訴えた。

中国は台湾を自国の領土と位置づけ、軍事力による奪取も排除していない。台湾政府はこうした主権主張を拒否し、「中華民国」という正式名称を持つ独立国家であるとの立場を取る。北京は民進党政権との対話を拒否し、頼清徳総統を「分裂主義者」と呼んでいる。

情報戦は、武力に頼らず台湾を消耗させる北京の戦略の一環といえる。この点で、中国政府との関係強化を重視する国民党が中国にとって格好の機会を提供している。国民党の鄭氏は今月、北京で習近平国家主席と会談した。習氏はこの席上で、国民党と共産党は「政治的相互信頼を固め」、「手を携えて祖国統一という輝かしい未来を切り開かなければならない」と述べた。

国民党はロイターに対し、鄭氏の北京訪問は選挙公約の実現であり、国民党と中国共産党は長年首脳レベルの会談を続けているとした上で、両党には多くの相違点があるものの、意見の相違は対話を通じて解決すべきだという点では一致していると説明した。

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