シーリグによれば、イノベーションのカギは、時間も心もうまく配分し、最重要課題に集中することだ(ここで、いわゆる「マインドフルネス」も関わってくる)。そしてもうひとつ重要なことがあり、それを以下、本書の「第6章 フレームを変える――脳に刷り込む」から抜粋する。
私が学生や企業幹部を対象によくやる演習があります。まず、航空業界や動物園など、ひとつの業界を取り上げ、その業界について当たり前とされていることを挙げてもらいます。つぎに、それとは逆のことを挙げ、常識をひっくり返したらどうなるかを考えてもらうのです。例として、ホテル業界について、あるチームが常識だと考えることを挙げましょう。
・部屋の鍵 ・小さな石鹸 ・旅行客 ・ルームサービス ・廊下の喧騒 ・自宅から遠い ・枕元に置かれたチョコレート ・鍵のついたミニバー ・チェックアウトの時間 ・コンシェルジュ ・部屋のテレビ ・ハウスキーピング ・高い食事代 ・モーニングコール
こうした常識とされることのひとつひとつは、疑ってみる余地があります。たとえば、チェックインとチェックアウトの時間を柔軟にするには何が必要でしょうか。コンシェルジュではなく、地元住民が案内をしてくれるのはどうでしょう。オープンキッチンがあり、二四時間いつでも好きなときに軽食をつくれるホテルはどうでしょう。飛行機の座席のように、客が部屋を指定できるとしたら。遠方から客を迎え入れるのではなく、地元住民が友人や家族と憩える場としてのホテルも考えられます。自分たちが常識だと考えることのリストを使って、それを逆転してみることで、斬新なホテルのアイデアを思いつくのです。
-----
映画館について見直したチームもあります。常識だと思うものを挙げ、それを疑ってみると、面白い映画館のアイデアが出てきました。ムービーにかけた「楽して動いて(Move Ease)」は、自転車漕ぎと映画館を組み合わせるアイデアで、観客はじっと座っているのではなく、エクササイズをしながら映画を鑑賞します。映画を見終わった時点で料金を支払えばよく、運動量が多いほど料金は安くなる仕組みにして、しっかり運動するよう促します。
最近、ある学生グループに、彼らの生活では不可能と思えるような挑戦を考えてもらいました。全員で話し合って出てきたのは世界旅行でした。世界中を旅したいけれど、資金がまったくありません。タダで世界を旅するなんて、とても無理だと思えます。次に、これを実現するのに、最悪と思える案を考えてもらいました。多くのアイデアが出ましたが、そのなかのひとつが、プライベートジェットを予約して料金を後払いにする、というものでした。ばかばかしく、到底理屈に合わないアイデアに思えます。