色はかつて、機能性と自己表現の両方を担っていた。たとえば、壁紙やカーペットの色と柄が、湿気の染みや凸凹な床・壁をうまく隠してくれたという。

しかし現在、マーフィー氏が「クレート・アンド・バレル現象」と呼ぶ現象が起きている。製品は「映える」ことを最優先に、SNSで共有されやすいようデザインされ、次のシーズンには「新色」に入れ替えられる。

「かつては自己表現が個性だった。しかし人間は本質的に『群れる』生き物で、いまは『同調』へと傾いているんです」

ラクシュミナラヤナン氏も同様に、「無彩色」は今や文化的な共通言語になっていると指摘する。

「SNSが『無難で洗練された』自分を演出する圧力を高めたんです。中立的で洗練された美学は、リスクを避け、幅広い層に受け入れられる安全な言語になっています」

マーフィー氏によると、私たちの現実世界から消えた色は、代わりにデジタル空間に集中しているという。

「まるで物理的な世界から色が抜け落ちて、その分だけバーチャル空間に集まっているようです。昔は寝室の壁にポスターを貼ったけど、今はSNSの投稿やチャット、『いいね』で夢を表現する」

こうした「現実と仮想の分断」は、現代人の二重生活──オンラインの過刺激と、オフラインの静寂欲求──を反映しているのかもしれない。

「私たちは『色』を嫌いになったのではありません」とラクシュミナラヤナン氏は言う。「『安定感』『センス』『ステータス』の象徴として、色の意味づけが変化しただけなんです」

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