<余命を知ったとき、残りの日々をどう生きるか。日常がシャッターを下ろすように中断されると知った時に......残ったのは「愛」だった>

ノーベル賞作家ハン・ガン氏が「しばらく外国にいたとき、この本を1日いちど、3回読んだ。毎日読んでもいい本」と紹介した散文集『朝のピアノ 或る美学者の『愛と生の日記』』(小笠原藤子訳、CEメディアハウス)は、韓国の哲学アカデミー代表も務めた美学者キム・ジニョン氏による遺作だ。

韓国では、元東方神起のジェジュン氏が「No. 107」の頁をインスタライブで紹介した他、俳優のイ・チョンア氏が朗読するなど、共感が広がっている。病に冒され余命を知ったキム氏が、亡くなる3日前までの日々を記録した本書より一部取り上げる。(全3回のうち2回目/1回目はこちら

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入院する朝、ベランダでコーヒーを飲み、こっそりタバコを一本吸う。美味しい。景色は曇っている。人々は駅に急ぎ足で向かう。世界の日常は無事だ。その無事の中にファクトが存在する。

ファクトとは厳酷な刃。正確で冷酷だ。この刃の無情さにわたしは記録を挑む。記録は愛である。愛は希望である。ふと青いバスが風景の中に入り込み、停留所に停まる。それから去っていく。『カフカの日記』が正解だ。

「あらゆるものは来ては去り、また来る」

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想像もしなかった人生が目の前にある。

これとどう向き合うのか。

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「先生はいま非常事態ですよ、そんなふうに悲しんだり落ち込んだりする時間はありません」と彼はわたしを追い込む。彼は正しい。わたしは存在の底に到着したのだ。単独者(*)になった。本質的に他者性の存在になったのだ。もうわたしの生をひとりで抱えなければならない。

それにしても、わたしはこんなに重かったか。

(*)... セーレン・キルケゴール(1813〜1855)により打ち出された存在のあり方。個人の存在や主体性を尊重する。キリスト教的神の前で、たった一人自己と向き合う者が単独者であり、個人の内面的な探求や自己実現の象徴としている。

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