2人はしばらく話をして、別れるときに桂さんは斉藤さんに柔らかいスリッパを贈った。靴を履くと足が痛くなると言ったから、桂さんが自分のスリッパを斉藤さんに上げたのだ。

だがその年の初夏、斉藤さんはまた荒川河川敷にやって来た。桂さんに、こちらに戻りたいという話を持ち出したという。

今回、桂さんは遠慮なく「いいよ、家賃さえ払えば」と応じた。月に1万円で、桂さんのその小さな「応接間」を斉藤さんに使わせることにした。

兄弟のような情はなくなったが、話し相手としてこれから関係を続けることもできる。私は桂さんのこの対応に賛成する。

しかし、斉藤さんが荒川河川敷に戻ってから1週間後、とても残念なことが起きた。桂さんが急性の心筋梗塞のため、入院したのだ。

桂さんに頼るために荒川河川敷に戻ってきた斉藤さんは、突然一人ぼっちになり、寂しさと不安を感じたようだ。いっそのことどこか別の場所に引っ越そうと思ったのか、彼はまたいなくなってしまった。でも、どこに行ったとしても、桂さんのような理想的な人生のパートナーに出会うことは難しいだろう。

※ルポ第15話:わが友人、ホームレス、テントに暮らす荒川の釣り名人。奇跡が起きることを祈っている に続く

(編集協力:中川弘子)
[筆者] 趙海成(チャオ・ハイチェン) 1982年に北京対外貿易学院(現在の対外経済貿易大学)日本語学科を卒業。1985年に来日し、日本大学芸術学部でテレビ理論を専攻。1988年には日本初の在日中国人向け中国語新聞「留学生新聞」の創刊に携わり、初代編集長を10年間務めた。現在はフリーのライター/カメラマンとして活躍している。著書に『在日中国人33人の それでも私たちが日本を好きな理由』(CCCメディアハウス)、『私たちはこうしてゼロから挑戦した──在日中国人14人の成功物語』(アルファベータブックス)などがある。
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