<日本政府は既に一定程度の所得再分配を行っているが、子育て世帯など低所得層の一部に対して貧困の削減どころか「逆機能」を起こしている。現在は衆院選の真っただ中だが、本質的な問題についての議論はあるか>
岸田文雄氏が日本の新首相に就任した。彼が看板政策として打ち出したのが「新しい資本主義」。新自由主義を見直し、「成長と分配の好循環」を実現するのだと言う。
だが金融所得課税の強化でよろよろしたり、「分配」が先か「成長」が先かとふらふらしたり。党内外からのさまざまなプレッシャーのなかで、彼がどんな社会をどれだけの覚悟で実現するつもりなのか、かなり不透明だ。
大前提として、日本政府は既に一定程度の「分配」をしている。正確に言えば「再分配」だが、日本の問題はその規模の不十分さだけでなく、そもそもそれが再分配としてうまく機能していないことにもある。
社会政策を専門とする東京大学名誉教授の大沢真理氏によれば、「税・社会保障による所得再分配は、普通の国では貧困を削減するが、日本では、子ども(を育てる世帯)や就業者の貧困をかえって深め」てしまっている。
日本の税・社会保障は子育てや女性が働くことに「罰」を科すような状態になっており、「機能不全」どころか「逆機能」だと言うのだ(『世界』2021年11月号)。
大沢氏はその要因として、公的社会給付が低所得層より高所得層に対して厚く、現役世代に対して特に少ないという「給付」の面の問題に加え、累進性のある個人所得課税を減らし、代わりに逆進性の高い社会保険料負担や消費課税を増やしてきた「負担」の面の問題も指摘する。
要するに、日本では給付と負担という再分配の両面に問題があり、政府がそれなりの規模で再分配をしていながら、低所得層の人々が実際に使えるお金(可処分所得)を増やせていないのだ。特に現役世代の貧困や不平等を減らすという意味において、日本政府は機能できていない。
市場を通じた所得格差の拡大は世界的な現象だ。経済学者のブランコ・ミラノビッチ氏によると、現代の「リベラル能力資本主義」では、労働所得より資本所得の割合が増え、それと並行して一部の人への資本所有の集中が加速し、「資本金持ち」が同時に「労働金持ち」でもある場合や金持ち同士の同類婚も増加。加えて親から子への所得や富の継承まで強化されている(『資本主義だけ残った』)。
つまり、放っておけば格差はどんどん拡大する。逆に言えば、不平等を是正するために政府が果たす役割も大きくなっているのだ。