没交渉という脅威

関係が悪いからこそコミュニケーションを絶やさない、というのは冷戦時代の教訓だ。

1962年のキューバ危機で核戦争の淵に足を踏み入れた後、アメリカ大統領とソ連共産党書記長をつなぐ電話回線「ホットライン」が敷設された。これは現在も残っている。

同様に、ウクライナ戦争で公式の外交関係がほぼ遮断された現在でも、NATO司令官とロシア軍参謀総長の間の連絡回線は開いている。

そこには「仲良くなれないのは仕方ないが、正面衝突はお互いにとって最悪の結果である。没交渉によって疑心暗鬼に陥り、偶発的な衝突や誤解によって正面衝突を招くのを避けなければならない」という判断がある。

つまり、国際会議など目立つ場所で、国民やメディアを意識してお互いにハデに非難罵倒しあっても、その裏で実質的なコミュニケーション回路を維持するのは外交、とりわけ大国間の外交ではむしろ当然で、必要なことでもあるのだ。

しかし、ロシアと比べて中国の場合、要人同士の直接の交流を望む傾向が強いこともあって、アメリカには常に連絡をとる手段が乏しい。だからこそ、バーンズ訪中の意味は大きいといえる。

そのバーンズ訪中が公式に発表されなかったのは、アメリカ国内の反中世論に配慮したものとみられる。世論は無視できないとしても、世論にしばられれば外交は成り立たない、ということだ。

バーンズとは何者か

ここでバーンズ長官について少し触れておこう。

1956年生まれのバーンズはブッシュJr政権、オバマ政権などで外交官としてキャリアを積んだ。中東やロシアで長く勤務した経験から、2015年の歴史的なイラン核合意では国務省次席としてアメリカの実質的な責任者を務めた。

その外交官としての顕著な実績により各国で受勲しており、日本政府も2018年に旭日大勲章を授与している。

民主、共和それぞれの政権で勤務したバーンズはバランスの良さ、堅実さが持ち味といえる。

例えば、ウクライナのNATO加盟には15年以上前から「ロシアのレッドライン」と反対してきた。そこに賛否はあっても、指摘そのものは現実的といえる。

バイデンの信任は厚く、これまでもデリケートな場面での活動が多かった。フィナンシャル・タイムズによると、ウクライナ侵攻直前の2021年暮れにロシアを訪問したり、昨年8月に台湾訪問を予定していたナンシー・ペロシ下院議長(当時)に「緊張を高める」と中止を要請したりしたという。

「わざわざ訪問する」意味
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