「わざわざ訪問する」意味

このバーンズ訪中は米中間のコミュニケーションの糸口になるとみられるわけだが、ここで重要なのは手法である。

というのは、極秘の直接訪問は中国を協議に向かわせるための、中国が断りづらい形式だったといえるからだ。

今回のバーンズ訪中は米中に国交がなかった1971年、ヘンリー・キッシンジャー補佐官が極秘で北京を訪問し、翌年の電撃的なニクソン訪中のお膳立てをしたことを思い起こさせる。

ハイクラスの要人がわざわざ訪問したいといえば、メンツを重視する中国政府は「礼を失した」とみなされないよう、これを受け入れざるを得ない。これが中国にとっても悪くない話であるから、なおさらだ。

現在の米中関係を一言で言えば、「一方的にあれこれ言うアメリカは無礼」というのが中国側の言い分だ。

もちろん、中国にとってもアメリカとの関係悪化は懸念が大きい。とはいえ、簡単に協議を再開することもできない。これまでナショナリズムや大国意識を国内に向けて煽ってきたため、いわば中国政府は自分の手足を縛った格好にあるからだ。

つまり、中国政府にとってもバーンズ訪中は「渡りに船」といえるが、アメリカ政府要人を迎えたことは国民にあまり知られたくない。だからこそ、中国メディアはバーンズ訪中についてほぼ全く触れないのである。

米シンクタンク、カーネギー・チャイナのポール・ヘンル博士はバーンズについて「中国の政治家や官僚は彼をよく知っていて、信頼できる対話者とみなしている...彼の静かで控えめなアプローチは中国にとっても望ましいものだ」と述べている。

この観点からみれば、フィナンシャル・タイムズの報道があった直後に台湾海峡で緊張が高まったことは、単純に偶発的な出来事である可能性もあるが、「協議をするとしてもアメリカのペースでは進めない」という中国のメッセージとも理解できる。

問題の仕分けと関係維持

バーンズ訪中は米中対立の一般的イメージとはかけ離れたものかもしれないが、国際政治のリアルを象徴するものともいえる。

バーンズ長官とともにバイデンの懐刀といえるサリバン補佐官も5月、オーストリアのウィーンで中国共産党政治局(中国の最高意思決定機関)メンバーや外交を統括する王毅氏と、やはり極秘のうちに会談していた。

関係そのものの維持は大前提
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