2016年3月、当局はフィツェック氏を逮捕。容疑は独自の銀行を設立し、約600人の「国民」から100万ユーロ(約1億2600万円)以上を横領したことだった。「国民」は四散し、2017年3月に裁判所はフィツェック被告に4年間の懲役を命じた。

客観的にみれば詐欺にすぎないが、多くの人々を巻き込んだ手腕からは、フィツェック氏がプロデューサーとしてそれなりの才覚をもつことがうかがえる。しかし、ドイツメディアによると、その経歴には挫折が目立つ。

2018年段階で51歳のフィツェック氏は調理師を皮切りにスポーツインストラクターやタトゥースタジオ経営者などを転々とした後、ザクセン・アンハルト州で市長選挙に立候補。しかし、わずか0.7パーセントの得票で惨敗し、民主主義に幻滅して「帝国の市民」に傾倒するなか、「王国」建国に至った。

美男子の転落

もう一人の代表的「帝国の市民」アドリアン・ウルサチェ氏も、多少なりとも社会で評価される才能をもつ(少なくともその自信がある)者が、挫折を契機に、陰謀論者になった点でフィツェック氏と共通する。

ウルサチェ氏は、やはり東部ザクセン・アンハルト州の自宅を独立国家「ウル」と宣言し、2016年8月に家宅捜索に入ろうとした警官に銃を発砲。殺人未遂で逮捕された。

現在44歳のウルサチェ氏は、1998年に「ミスター・ドイツ」コンテストで優勝。モデルとして活動するなか、「ミス・ドイツ」受賞歴のある女性と結婚し、2人の子どもをもうけた。しかし、その後、起業するものの事業に行き詰まり、数十万ユーロの借金を負うなかで「帝国の市民」に傾倒したとみられる。

なぜ陰謀論を信じるか

これら2人の「帝国の市民」に典型的に表れているように、実生活での挫折と陰謀論には密接な関係があるとみられる。

アメリカ心理学会の権威ある雑誌『心理学の新動向』に2017年12月に掲載されたイギリス人心理学者カレン・ダグラス博士らの論文は、陰謀論に傾く人の心理状態を、大きく以下の3つに整理する。

1  現実を理解し、確実性を高める欲求

2  自分の問題を自分で処理することで安全性を高める欲求

3  自己イメージをよくする欲求

陰謀論に傾く人の心理状態1つ目